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カルチャーポケット安田雅弘

【当世現代演劇事情1】きっかけは利賀村/2001.7-8

 【当世現代演劇事情1】きっかけは利賀村 2001.7-8(表紙)【当世現代演劇事情1】きっかけは利賀村 2001.7-8

 「つまり、関西の演劇人にケンカを売ればいいんですね」「そうです」と甲斐さんは大きく、「うーん…」と餘吾さんは小さくうなずいた。

 場所は5月上旬の利賀村(とがむら)。富山県の山間にあって、毎年ゴールデンウィークに利賀・新緑フェスティバルという演劇祭が開かれている。今年で7回目になる。フェスティバル・ディレクターをつとめる私に原稿依頼の件で打合せがしたいと、編集部のお二人が訪ねて来た。関西には何のうらみもない、義理もない。その私がなぜ大阪市の発行する情報誌で演劇について書かなければならないのか。依頼はうれしいが、それがわからない。関西の人が書けばいいじゃないか。「何とも言えない閉塞感があるんですよね」と甲斐氏。

 知ったこっちゃない、とノドまで出かかって、全く思い当たるふしがないわけでもないことに気がついた。ここ3年、フェスティバルにあわせて、私たちより若い世代の演劇人を利賀に招き、「若い演劇人のための集中講座」というものを開いている。今年から自習運営をしたいと言い出して、名前を「ネクスト・リーダーズ・キャンプ」とあらため、彼らとってに切実な問題について集中討議してもらっている。

 テーマは「海外公演へのアプローチ」「事務所・稽古場の共同運営、ワークショップ・演劇祭の共同開催」といったアグレッシブなものから、「演劇教育」「演出論」「制作論」など自分たちの足元を見つめようとするものまでさまざまある。テーマ別に話し合い、公演劇団(ク・ナウカ、青年団、山の手事情社)にインタビューし、他の参加者に報告発表する。それ以外にもフェスティバルの公演を見たり、専門家を招いて話を聞いたり、夜は具体的なテーマでトーク・バトル(見世物的な議論)をおこなったりする。

 メンバーは34名、30弱の劇団から参加している。平均年齢は20代後半から30代前半というところ。新潟県、山梨県、愛媛県、鳥取県からの参加もあるが大半は東京の劇団だ。東京オレンジ、reset‐N、ジンジャントロプスボイセイ、Ort、など実績のある若手劇団も含まれている。が、関西の劇団が一つもない。情報が伝わっていなかったのかもしれない。とも思うが、おそらく違う。

 3年前にはMONOが、2年前には桃園会がゲストとしてこのフェスティバルを盛り上げるのに一役買ってくれている。知らないということはない。しかし問題は、参加不参加ではない。関西からの参加がないことに、私たちが疑問を持たなかったこと。関西の演劇シーンに関心が払われてないことに問題があるのではないか。

 考えてみれば、関西には演出家がいないなぁ、と思う。ビビッドな現代演劇のカンパニーがないよなぁ。関心も持たれっこないよなぁ。…気は進まない。ものの、このあたりからケンカを売りはじめることにする。

※ カルチャーポケット 2001年7-8月号 掲載

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【カルチャーポケット】
1999年8月から約5年半の間、大阪市文化振興事業実行委員会より発行されたフリーペーパー。通称c/p。

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