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カルチャーポケット安田雅弘

【市民劇をつくる1】市民劇って何だろう?/2002.5-6

【市民劇をつくる1】市民劇って何だろう? 2002.5-6(表紙)【市民劇をつくる1】市民劇って何だろう? 2002.5-6

<演劇を今よりも身近なものにしたい。>
 私はそう考えています。演劇は、詩や小説を書いたり、バンドを組んだり、サッカーをするのと同じくらい気軽に取り組めるもの。もしそうなってないのであれば、今まで、そうした機会に乏しかったか、演劇の魅力の伝え方に足りない部分があったのだと思います。

 <そのために、どうすればいいか?>
 興味のある方々に体験していただくのが一番です。簡単なところから触れられる機会をできるだけ多く作っていくことが大事でしょう。文学や美術や音楽やスポーツと同じように、演劇も体験してはじめてプロの技術や経験に感心できることがあります。体験によって演劇や演技の見方は確実に深くなります。

 「劇場」という言葉があります。そこへ出かけて、演劇や音楽を鑑賞する建物、と受け取られがちです。そのとらえかたから変えていきましょう。「学校」や「病院」と同じような言葉だと思ってください。それは建物を指す言葉であると同時に、関係を示す言葉でもあります。「学校」は生徒と教師、「病院」は患者と医者の関係も含みます。「劇場」は観客と芸術家と言ってもいいですし、人間と舞台芸術の関係も表わしています。

 ですから、「劇場」は、本来ならば、美術館や図書館と同じような感覚で、興味のある人がそこを訪れればいつでも舞台芸術を体験、鑑賞できる状態が理想なのです。営利目的の民間劇場はともかく、税金でまかなわれている劇場は特にその使命を負っていると考えていいのではないでしょうか。
演劇の場合むずかしいのは、同じ芸術分野でありながら美術や音楽と違って、小中学校や高校では授業として教えられる機会がきわめて少ないことです。興味を持っている方はたくさんいますし、才能のある方も少なからずいるはずなのに触れる機会がない。身体づくりや発声など基礎的なところからお伝えする必要があります。

 この10年ほど、全国各地で、一般市民の方々が演劇に近づくお手伝いをしてきました。冒頭の目的を果たして行く場合、数あるプログラムの中で、もっとも効果があると思われるのは、市民劇を作ることです。参加者は中学生から熟年の年配者まで。アマチュア劇団や、演劇部の方もいましたが、どちらかといえば、今まで演劇には縁のなかった方が多数でした。車椅子の方もいました。

 製作期間は正味一ヶ月半ほどですが、参加者の自主的な練習も含めて、三ヶ月程度。参加の意思があり、練習にしっかりと出た方には必ず出番をつくります。作品はなじみが深く、演劇的にもすぐれたシェイクスピアを用いました。『ロミオとジュリエット』『十二夜』『夏の夜の夢』『じゃじゃ馬ならし』…。ほかにチェーホフの作品に取り組んだこともありました。

 舞台芸術の才能は必ずしも演技だけではありません。せりふをしっかり喋る能力も重要ですが、カラオケがうまい方には歌ってもらい、ダンスを習っている方にはそのシーンを作りました。ほかにも人に見せるべき特技があれば、それを極力取り込んだ作品づくりが可能です。まさに市民の力を結集した舞台は、観客の皆さんにも大変好評でした。

 次回は市民劇をつくるに当たっての注意点に触れたいと思います。

※ カルチャーポケット 2002年5-6月号 掲載

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【カルチャーポケット】
1999年8月から約5年半の間、大阪市文化振興事業実行委員会より発行されたフリーペーパー。通称c/p。

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