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安田雅弘演劇の正しい作り方

【演劇の正しい作り方⑯】あなたと私の筋肉トレーニング(体育としての演劇7)実演編その4/96年12月号

 演劇の正しい作り方16/96年12月号

 あくまで、
 「わたしたちはこうやってる」
のであって、
 「こうやれ、これ以外にない」
というつもりはない。
 ここで紹介する方法をそのままやる必要などさらさらないのだ。はじめのうちはしかたないとしても、慣れてきたらあとは参考にさえしてもらえればじゅうぶん。自分たちでいろいろなやり方をさがしていけばいい。
 さて、今回から筋力トレーニング。
 目的は大きく3つ考えられる。
 まずは「体力に自信をつけるため」。柔軟運動の目的の一つに「ケガの予防」というのがあったが、同じようなもので、ここでいう体力とは「疲れない」というよりは「疲れても回復が早い」ということだ。舞台は何のかんのいっても「現場にいてナンボ」の世界。へたばったらオシマイなのである。
「体力が基本!」
 次に「安定した腰を作ること」。なぜ「腰」なのかというと、「俳優は舞台で全身をさらしてしまうから」だ。俳優にそのつもりがなくても観客は俳優の全身をながめる。プロポーションも大事だけれど、「どう動くか」がとても重要なのである。人間の動きというものは腰を中心に展開する。その際、腰が安定していないと表現が明確な輪郭を持てない。つまり何をやっているのかお客さんに伝わりにくくなる。で、「腰」。
 最後に「身体感覚のため」だ。
 実は俳優をやる上でこれが一番重要とぼくは考える。身体感覚のない俳優は味覚のないコックのようなものだ。俳優はムリである。目新しいことではない。むかしから俳優をめざす人が踊りを習うのはみなこの身体感覚を身につけ、みがくためである。といって、今から慌てて踊りを習うこともない。身体感覚をみがく方法はほかにいくらでもある。
 身体感覚がどういうものかを書き始めるととんでもなく長くなりそうなので、いずれまとめて話すことにしよう。大切なのはそういう感覚があるってことと、筋力トレーニングを始める人はまさにその入り口に立っているってことだ。
 トレーニングの基本的なルールは以下の通りである。

◎ちょっとムリをする
 →筋力をつけたい場合は少ない回数できついものをやる。持久力をつけたい場合は逆に軽いものを多くやるといい。
◎できるだけ毎日やる
 →身体との付き合いは人間関係と一緒。こまめなケアが有効である。
◎息を止めない
 →止めると固~い筋肉になる。おススメできない。
◎ストレッチをする
 →筋肉にたまった疲労はすぐに取るようこころがける。回復が早くなる。前々回までの「柔軟運動」とあわせておこなうと効果倍増。

 今回は「あなたと私」2人でできるトレーニングで組み立ててみた。

■腹筋
腹筋は発声の際、特に重要となる。腹筋を上部・中部・下部に分けて鍛える方法もあるが面倒なのでウチではやらない。ここでは基本的なものを2種類紹介しよう。

☆両手を組んで後頭部にあて、仰向けになって、両ひざをたてる。パートナーは両足のところに乗り、両手をふくらはぎにかけて足を固定してやる。20回~50回程度起き上がり、もどる。
[check!]起き上がるときに息を吐き、もどるときに吸う。きついときは両手を「前へならえ」状態にするとラクになる。

☆仰向けになって、立っているパートナーの足首をつかむ。のばした両足をポイントにして揃え、パートナーの胸元へもって行く。パートナーはその足を投げてやる。投げられた足を床につけないようにして20回~50回程度投げられてはもどす。

※腹筋のストレッチ
うつぶせになって肩のわきに両手をつき、腕をのばしてのけぞるようにし、腹筋をのばす。手をつく場所を胸のわきにするとさらにのびる。のびるときに息を吐くようにする。

■側筋
☆からだの右側を床につけて、横向きになり、両足をのばして揃えパートナーに乗ってもらう。両手を組んで頭の後ろにあて、左のひじができるだけパートナーに近づくように横向きに10回~40回程度起き上がり、もどる。起き上がるときに息を吐き、もどるときに吸うようにする。
[check!]もどすたびに床にからだをつけないようにこころがける。左右おこなう。

パートナーはからだが前後にまがらないように両ひざで足をはさむように乗る。
左にまげるときは右ななめ上を見るようにするとからだがまがりにくい。

※側筋のストレッチ
パートナーに手を引っぱってもらう。
[check!]伸びているのは床についている方なので、左側をのばしたいときは左側を床につけるように横向きになること。

■背筋
☆うつぶせになり、両足を揃えてパートナーに乗ってもらう。両手を組んで頭の後ろにあて、息を吸いながらからだをそらし、吐きながらもどす。20回~50回程度おこなう。
[check!]きつい場合は両手を「休め」の状態にするとラクになる。

■背筋のストレッチ
☆四つん這いになり、お尻をかかとにつけるようにして息を吐く。

■ジャンプ(下半身~腰・バランス)
☆小さくなってもらったパートナーの左右を飛んで往復する。5~25往復おこなう。
[check!]当然のことながらパートナーを踏まないように気をつける。着地の際、足のバネをきかせ、できるだけ踏みかえないようにする。つまりジャンプ一回につき一回しか地面に足をつけないようこころがける。

※ジャンプ後のストレッチ
ももをのばす(演劇の正しい作り方⑭ 柔軟運動[演劇ぶっく62号]を参照)背中が床から離れないように気をつける。左右おこなう。 

「演劇ぶっく」誌 1996年12月号 掲載

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