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安田雅弘演劇の正しい作り方

【演劇の正しい作り方⑱】ヘヴィなやつ(体育としての演劇9)実演編その6/97年4月号

 演劇の正しい作り方18/97年4月号

 「台本」は大好き。でも「台本至上主義」はいけない。
 「台本至上主義」とは、
「台本かなければ演劇は始まらない」
 という考え方である。
 この考え方がまずいのは、多くの場合俳優の自尊心を育てないからだ。自尊心を持たない俳優は本来なすべき努力を怠り、結果としてそういう演劇はひどく魅力のとぼしいものになる。
 とボクは思う。
 わざわざ「ボクは」とことわるのは、「台本至上主義」が日本の演劇的常識の九割九分にまで蔓延していると考えるからだ。ボクの考えは演劇界ではまだ特殊なのである。
極論すれば、
「台本などなくても演劇は作れる」
 といいたい。
「俳優が何をしゃべり、いかに動くかを脚本家や演出家に全てゆだねることは演劇にとってもはやマイナスだ」といいたいのだ。
 「台本至上主義」ではもうダメである。
 日本人の九割以上の人は明日演劇がなくなると聞いても困ることはないだろう。
 「台本至上主義」がなぜダメなのかという理由はそこにある。ダメだからこうなったのだ。この考えでいく限り、人々がテレビや映画、文学や美術や音楽とは違った魅力を舞台芸術に見出すことなどないだろうと思う。
 だからダメなのだ。
 「しかしねぇ」
 と反論はあるかもしれない。
 初心者が演劇を始める際に台本を使わずにどうすればいいのか。そんな方法があるのだろうか。
 もちろんある。
 それをお伝えしたくてこの文章(連載)を書かせてもらっているのだ。
 むろんボクらのやり方しかないなどと思い上がるつもりもないし、繰り返すが台本そのものに魅力がないと主張したいわけでもない。
 ただ演劇の魅力のほとんどは台本にあるという「台本至上主義」の思い違いを許すわけにはいかない。
 「台本至上主義などない」
 という意見もあるかもしれない。
 のんきである。そののんきは無知を通りこして罪悪でさえある。
 演劇を滅ぼしたいのか。
 台本の善し悪しについての議論はたくさんある。舞台の善し悪しについての感想もたくさんある。けれども俳優の養成方法や演出方法についての議論などたとえあったとしても、まるで一般化していないのが現状である。議論も理論も実はないのである。ボクのような若輩が、これはというような話にめったに出会わないのだ。どうやらろくな議論はないようだ。そういっていいのではないだろうか。
 これはヤバイだろう、と思う。
 演劇人が演劇の魅力を一般の人々に語っていない、または語れないこの状況がである。

 何はともあれ、ボクは正しいと思う方法をお伝えしていく。それだけだ。
 こうしたトレーニングのあり方に疑問を持つ方もいるかもしれないが、ボクは最低この程度のトレーニングを経ねば「台本至上主義」の呪縛を容易には脱せられないと考えている。
 今回はややヘヴィなトレーニング。
 注意4つ。
◎ちょっとムリをする
◎できるだけ毎日やる
◎息を止めない
◎ストレッチをする

■ブリッジ(全身)
開始~完成
☆壁から少し離れた場所に、壁を背にして立ち、のけぞるように両手を壁について……
腰を落とさないようにしながら両手を少しずつ下げ、床につける。
[check!]手を床まで持って行けない場合は、足の位置を前後に調整してみる。それでもだめなら、やるたびに下げていくようにする。
[check!]目は床についた手を見る。ひじはできるだけ曲げないように。
[check!]両足のかかとをあげ…… 爪先と手の位置をできるだけ近くし、腰を中心としたアーチで支えるようにこころがける。
[check!]慣れてきたら壁を使わずに作ってみる。その際、頭を打たないよう注意!

終了
☆壁を使って作った場合には、そのまま壁を利用してもとの姿勢に戻る。
壁なしの場合、手を爪先にさらに近付ける要領で腰を上に持って行くと、自動的に起き上がれる。

□アプリケーション1・ゆする
☆腰を前後にゆする。
[check!]同様に上下、左右にもゆすってみる。慣れてきたら各10回程度おこなう。

□アプリケーション2・足上げ
☆片足をできるだけ高く上げ、のばしてみる。
[check!]バランスに気をつけてさえいれば、思ったより難しくないはず。10秒程度固定し、左右おこなう。

□アプリケーション3・歩く
☆片手、片足ずつ動かして移動してみる。
[check!]はじめは方向感覚がつかみにくいので、頭の方向に進んでみる。動けるようであれば、5メートル、10メートルとふやしてみる。

※ブリッジのストレッチ
前屈 … 立ったまま前屈して腰をのばす。(演劇の正しい作り方⑰ 参照)

■かかとあげ(足首~お尻)
☆両足を肩幅に広げて立ち、かかとをあげておく。
「いち、に、さん…」と号令をかけながらかかとを床にできるだけ近づける。
[check!]視線を一点に定めておく。かかとは床につけない。50回~100回程度おこなう。腕は下げても頭の後ろで組んでもいいが、肩に力をいれないよう気をつける。

※かかとあげのストレッチ
アキレス腱をのばす … 足を前後に開いて後ろ足のアキレス腱をのばす。
[check!]左右おこなう。あわせてひざの屈伸もおこなうとよい。

■スクワット(下半身全体)
☆両足を肩幅に広げて立ち、両手を頭の後ろで組んで視線を一点に定め、号令をかけながら腰をまっすぐにおろし、あげる。
[check!]あまり前傾姿勢にならない。
[check!]腕は腰を下ろしやすいように振ってもよい。
[check!]腰はかかとにつけるほど下ろさずに、もっともきついところまで下ろしたら、上げるようにする。50回~100回程度おこなう。

※スクワットのストレッチ
ももをのばす … 片足を折って仰向けになる。(演劇の正しい作り方⑭ 参照)
[check!]のばしていない方の足を折ったひざのあたりに乗せると、さらにのびる。

「演劇ぶっく」誌 1997年4月号 掲載

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