ライブラリ

コラム

名越 未央演出ノート越谷 真美

あたしのおうち/2019.3

現在、何度目かの構成変更中で頭が沸騰しています。『あたしのおうち』構成、演出担当の越谷真美です。

今年度の研修生たちと、「ナルミ」という女性の内面に出入りする記憶や妄想たちという設定で、台本のないお芝居をつくってきました。

自分以外の何者かになりたくて始めた演劇ですが、この一年研修生の稽古を見ながら、結局自分は自分自身でしかなく、演じるとは自分が変わることなんだと気づいたのはつい最近のことです。稽古中に注意すると、真面目な彼らは「はい」とすぐ返事をしてくれるのですが、そう簡単なことじゃないよ、とつい思ってしまいます。それとも、みんなただ私が怖かっただけなのか……。

劇中のナルミも自分が変わることを拒み、過去から逃げ続けて袋小路に陥るのですが、この芝居をどう終らせるべきなんだろうか。彼らが過ごしてきたこの一年と重ね合わせつつ、今夜も構成、演出を練り直しております。

弱小劇団のようにこぢんまりと稽古を重ね、数えきれないくらい大変なことがあった気もしますが、本番がきたらあとはもう彼らの時間です。

成美、菜月、高見、祐紀乃、髙坂、健闘を祈る!!

本日はご来場いただき誠にありがとうございます。
どうぞごゆっくりご覧いただければ幸いです。

構成・演出 越谷真美

----------

よくもまぁこんな連中が集まったものだ。

2018年度、どうにも奇妙な生い立ちの研修生がそろってしまった。いや、そろってくださった、と言うべきか。山の手事情社の研修プログラムは、自身の経験や身近な人をネタにする稽古がたくさんあるのだが、彼らからは“ちょっとフツウじゃない私の家族”エピソードが豊富に提供された。

俳優は、自分を観て、他人を観て、社会を観る、鋭い眼を持たねばならない。

そのため研修生はまず、いかに自分という人間を把握できていないか、ということを徹底的につきつけられる。心も身体も、クセだらけでまったく思い通り動かせないことに愕然としただろう。追いつめられ自己を見つめ直すとき、自分を育んだ家族は切っても切り離せない存在だ。

小さな体で、その理不尽さにも気づかず、ただただ目の前の出来事を受け止めるしかなかったかつての自分のことを彼らは考える。できることなら忘れたい、封印しておきたいような記憶にまで手を伸ばし、無理やりこじ開けて、何かをつかもうともがいている。

願わくば、あなたの記憶の箱にもにゅるっと手を伸ばし、こじ開けられそうになるような、ドキっとする瞬間を味わっていただければ幸いです。

最後に、この物語はフィクションです。

研修生の経験に取材したシーンもありますが、改変に次ぐ改変を重ね、もはやフィクションでございます。ご安心いただき、どうぞじっくりとお楽しみくださいませ。

演出助手 名越未央

コラム一覧へ