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劇評/Performance Reviews

タイタス・アンドロニカス ルーマニア公演 劇評「新しいフォームの演劇」

シビウ国際演劇祭FITS(3)
『タイタス・アンドロニカス』新しいフォームの演劇

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山の手事情社は、1982年、学生演劇としてデビューした。四半世紀を経て、新しい演劇の手法を提示するまでに至った。ヨーロッパ演劇の古典に対する劇団の傾倒は明らかであるが、これまでの作品では『タイタス・アンドロニカス』(1999年から演じてきている)、『じゃじゃ馬馴らし』(2000 年)、『ロミオとジュリエット』(2003年)、『真夏の夜の夢』(2004年)、ソフォクレスの『オイディプス』(2002年)などがある。

(タイタスの物語のあらすじ:省略)

シェイクスピアはエリザベス時代の演劇を刷新するのに彼一人で十分であったが、劇団山の手事情社と演出家・安田雅弘は、演劇の新しいスタイルを創造した。そして『タイタス・アンドロニカス』はこのスタイルを代表する作品であると思われる。この《四畳半》と呼ばれる新しいスタイルは、観客に向かって役者が直接働きかけるもので、視覚的効果と母音に力を入れた台詞の明確な発声との協力によって生み出されるものである。安田雅弘によって開発されたこの《四畳半》スタイルは、「日本舞踊」と呼ばれる、日本の伝統的なダンスと、能あるいは歌舞伎から受け継いだものとを起源としている。
『タイタス・アンドロニカス』は、チームで行う芸術的パフォーマンスであるが、それぞれの役者が、アンサンブルとしての均衡を破壊することなく、輝きを放つ場面があるのである。これは、さまざまな性格をもった力を発揮するが、心の動きのメカニズムを破壊することはない。そして的確な場面で台詞が出てくるのである。こうして 表現力豊かな一つのタイプがそこに現れ、その目配りで貴方を釘付けとするのである。役者は歩くのではなく、滑るように見えた。彼らの動きは、ステップ・バイ・ステップではなく、場面ごとに区切ることは出来ない。映画のスローモーションのように滑っていくのである。そして時々動きが中断され、適切な効果音に 支えられてより急激な動きが導入されたりするのである(首を切ったり、腕を切ったり、あるいは性的行為など。それはあたかも感電したかのように扱われているが)。
『タイタス・アンドロニカス』は、単に良く出来た舞台ではない。演出家安田雅弘の舞台は、一つの新しい演劇のフォームを提案しているのである。舞台にはグループになった役者が、ちょうど組織化されたチェスのメイレイ(mêlée)のように現れる。役者たちはアクションの場面の必要に応じてそれぞれの位置を変えていく。まとまった「歩兵」達の力によって台詞のインパクトが強められることとなる。ラグビーのメイレイ(mêlée)のようでもあ る。また私たちにとっては予期しないものであったが、劇団山の手事情社は観客を飲み込んでしまうほどの特別な芸術的価値をもつ舞台を証明してみせたのであ る。この舞台は、茶室の大きさでも成功裏に上演できるものである。つまり8メートル四方の空間である!
たとえ日本の役者の名前は、私たちの読者には知られていないとしても(当面)、この革新的舞台の共同・作者であるので、この素晴らしい芸術的舞台に敬意を表して名を上げておきたい。

Cristian Sabau(2009年6月18日・bitpress掲載)

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