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タイタス・アンドロニカス ルーマニア公演レポート

私たち、劇団山の手事情社のメンバーは、平成21年5月29日から6月12日まで、ルーマニアのシビウ、ルムニク・ブルチャ、ブカレストの3都市で、『タイタス・アンドロニカス』の公演を行ないました。公演は無事に終了し、現地では思いがけない大きな反響を呼びました。

特に最初の公演地シビウは、イギリスのエディンバラ、フランスのアヴィニョンに次ぐ、ヨーロッパ三大演劇祭の一つとされ、近年レベルの高い、影響力のあるフェスティバルとして注目されています。平成19年に主宰の安田が視察し、その表現水準の高さに驚き、強く参加を望んできました。幸いフェスティバ ル・ディレクターのコンスタンティン・キリアック氏が劇団のDVDを見て気に入ってくださり、招聘される運びになりました。

以下、ルーマニア公演の概要と成果を簡単にレポートしましょう。

■シビウ公演
会期…6月1日、19:00開演、計1回公演。会場がフェスティバルのメイン会場であることもあり、原則1回公演です。
会場…国立ラドゥ・スタンカ劇場。
ここには、シビウ国際演劇祭の本部があり、芸術監督コンスタンティン・キリアック氏の本拠地でもあります。かつて映画館であった建物を改修したユニークな劇場です。
座席数…250席ほど。超満員、立見客多数でした。

  • 公演終了後、すべての会場で、観客からは毎回5回を超えるカーテンコールと、スタンディングオベーションの高い評価をいただきました。お国柄もあると思いますが、日本では考えられない反応ですね。
  • 公演直後、芸術監督キリアック氏をはじめとし、ルーマニアを代表する演出家プルカ レーテ氏、ウクライナの演出家ゾルダック氏、エディンバラ演劇祭の芸術監督ジョナサン・ミラー氏、EU劇評家協会の幹部である批評家のバニュ氏ら、多くの 専門家から直接、称賛の言葉をいただきました。これも日本では想像ができない反響です。
  • 公演翌日、異例の記者会見が行われ、芸術監督キリアック氏より、あらためて公演の成功に称賛と激励をいただくとともに、今後の当劇団とラドゥ・スタンカ劇場との関係構築についての展望が語られました。環境が整えば、《山の手メソッド》 のワークショップをルーマニアで実施したいという内容でした。
  • 上記バニュ氏らをはじめ、数名の専門家から他の国の劇場、フェスティバルへの紹介を受けました。
  • 日本を代表する演劇評論家、七字英輔氏、扇田昭彦氏も観劇され、両氏より公演後、観客らの高い評価に驚きを感じたことと、充実した舞台内容にお褒めのお言葉をいただきました。
  • 3つの公演地の現地の新聞、雑誌、ラジオ、また、ネットやニュースレターでも、評論家らによる劇評など、大きな反響がありました。
  • さらに、シビウでの公演は、ルーマニア国営テレビで舞台全編が収録され、放映されました。
  • 自分たちの公演をはさんで、フェスティバルに参加している他のカンパニーのお芝居も見ることができました。100人近い俳優が登場する『ファウスト』や、登場人物が全員全裸の『メデイア』など、どちらも日本では決して見ることのできない舞台を堪能することができました。

ルムニク・ブルチャ公演

会期…6月5日~7日、19:00開演の公演を、計3回。
会場…市立アリエル劇場(新館)。
座席数…200席ほど。初日、満員。2日目、3日目は9割。

  • ルムニク・ブルチャは決して大きな町ではありませんが、演劇にはとても力を入れているようです。市立のアリエル劇場は旧館と新館があり、旧館は座席数80名ほどの小さな劇場です。新館は映画館と併用で、とても新しい建物でした。
  • シビウでは曇りがちで肌寒く、長袖を着ていたのに、さほど遠くないルムニク・ブルチャに到着したとたん空は晴れ渡っており、Tシャツ一枚でも暑いくらいです。
  • おそらくは見慣れない日本のお芝居を、スタッフ総出で手伝ってくれます。観客の皆さんはスタンディングオベーションののち、口々に「おめでとう」と公演の成功を祝福してくれました。
  • 終演後、近くの公園で懇親会が開かれ、アニメや映画やスポーツの話から始まって、 ルーマニアの人々のなみなみならぬ日本文化への興味を知ることができました。公園では同時刻に結婚披露宴が開かれていました。ルーマニアの披露宴は数日に渡って行われるらしく、一旦帰宅して眠ってから戻って来て、祝い続けるというような話も伺いました。場所が変われば、さまざまなことが違います。私たちが世界から見れば、日本というちっぽけな地域に生活しているに過ぎないことを知ることはとても重要な体験だと感じました。
  • ひとたび日本を出てしまえば、私たちは「日本人」であり、好むと好まざるとにかかわらず「日本文化の体現者」とみなされてしまいます。
  • ルムニク・ブルチャの芸術監督から、今後の発展的な関係を望む言葉をいただきました。具体的には、相互の演出家や俳優の派遣による共同作業すなわち芝居作り、また、それを前提としたワークショップの実施などです。
  • 滞在最終日には、劇場の方が私たちだけのために旧館で小品を上演してくれた上、バスで世界遺産のホレズ修道院などを案内してくれました。

ブカレスト公演

会期…6月10日、11日、19:00開演の公演を、計2回。
会場…国立ブカレスト劇場・アトリエホール。
座席数…200席ほど。初日7割、2日目8割ほど。

  • 首都ブカレストはかつて東欧のパリと呼ばれただけあって、往時の繁栄を感じさせる 多くの建物がありました。移動中のバスから独裁者チャウシェスクの時代に作られた驚くほど巨大な「国民の館」も見ることができました。魅力的な劇場が数多 くあり、連日違うレパートリーを上演しています。深夜ライブハウスのような場所で上演しているお芝居も見ることができました。
  • 上演した国立ブカレスト劇場はおそらく社会主義時代に建てられたもので、重厚な印象の堅固な建物でした。中の構造は複雑で、大劇場、中劇場など複数の劇場があります。また、国立劇場の隣には、国立オペレッタ劇場もあります。オペラ劇場 はまた別にあるので、この国の人々が舞台芸術をいかに大切にしてきたかが偲ばれます。私たちが上演したアトリエホールは、キャパシティ200名ほどのブ ラックボックスです。
  • ヨーロッパの少し大きな公立劇場ならば当たり前のことですが、建物内は劇場だけでなく、多くのリハーサルスタジオが用意され、従業員のため安くておいしい食堂もあります。私たちは劇場と同じ広さのリハーサルルームを借り、本番に備えることができました。
  • 本番には、クライオーバのシェイクスピアフェスティバルのエミール・ボロジーナ委員長がおいでになり、シェイクスピアフェスティバルへの参加を強く要望されました。2年に一回開催されるこのフェスティバルは平成22年は『ハムレット』 をテーマにし、世界中から作品を集めているそうです。「山の手事情社は『ハムレット』を作っていないのか? ない? じゃあ来年までに作りなさい。」と笑い話になりました。
  • また、シビウ国際演劇祭での評判を聞いた記者の方や一般の観客、日本の駐在員の方々も多数お運びくださいました。
  • もうこれ以上は入らないというほどルーマニア自慢の肉料理を食べさせてもらった打上げの翌日、私たちはルーマニアをあとにしました。本番のない日でもほぼ全日リハーサルを行い、『タイタス・アンドロニカス』はいままでの山の手事情社の 作品とは違った水準のお芝居になったと思います。日本のお客様にも早くご覧いただきたいと思いつつ、帰国の途につきました。

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