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コラム

安田雅弘水寄真弓演出ノート

おとことお酒[山の手・女祭り・男祭り]/2009.11

安田雅弘(2009.11)

おとことお酒と俳優とわたし

一般に古典台本を使った公演では、俳優ははじめからその「役」であることを求められる。役者の「地」の部分は、せいぜいカーテンコールで垣間見える程度である。今回、水寄や私が目論んだことは、この「地」から「役」までを舞台上にグラデーションで展開できないか、ということであった。「女祭り」でも「男祭り」でも主人公たちを俳優自身に選んでもらったのは、彼らに共感できる部分がまったくないと、このグラデーションは成立しにくいのではないか、と予感したからである。

 かなり「地」に近いおしゃべりの部分から、中間に当たる《ショートストーリーズ》、セリフでは「役」に限りなく接近したいと考えた。「地」であれ「役」であれ、その時々俳優の中で起こっていることに私は興味がある。同時に、内部で何モノかを走らせて、居場所の位相を瞬時に変える俳優という生き物にも関心が尽きない。この不思議な生態への好奇心が消えない限り、私は酒と同様、演劇から離れることはできないだろうと思っている。

 

水寄真弓(2009.11)

別の生き物

『お茶とおんな』があるなら『おとことお酒』があってもいいよねー。

 そんな軽い感じのノリで話していたのが、今回の上演に至るきっかけでした。2年前でした。本当に軽いノリで言ったことでした。それが、山の手事情社の本公演となり、演出することになるとは…。一人ではまだ不安なので、安田氏と共同演出ということでお願いしました。ところが、自分の世界を創りたいという欲求がぐんぐん芽生え、安田氏にとっては、めんどくさい生き物との関わりになっていたことでしょう。

 男と女は、別の生き物でした。改めて実感しました。イヤって言う程。「こんな世界(シーン)を創りたいので、こんな感じで」と言った提案をしてみたものの、別の生き物なのでその通りにはなりません。「やって」という横暴な私の注文を受け入れてくれてありがとう。やっぱり違ったワ。(ごめんなさい)
 この世には別の生き物が混在しています。だからドラマが生まれ、葛藤と折り合いを付けて生きていくんですね。そうか、楽しいぞ。

 男達の世界を、男性は男性目線で、女性は別の生き物を見る目線で、どうぞご堪能下さい。

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