稽古場日誌

外部活動 佐藤 拓之 2016/04/15

TOHOKU Roots Project 『想稿・銀河鉄道の夜』 リポート

稽古が始まったのは、2016年の1月下旬。
「東北人は人見知りが多い」そんな噂をちらほら聞いたが、私はそうでもないので、単なる噂に過ぎないと思っていたら、まんざら嘘でもない。
緊張感あふれる初顔合わせ。今となっては懐かしいですね。

役者は全て東北出身。東北ルーツプロジェクト。
稽古開始から1週間はプレ稽古。まずは仲良くなり、お互いのことを知るところからスタートしました。
印象的な稽古は「みんなの故郷を回る」。
ある役者の実家へ最寄り駅からスタートとして、実家の部屋にまで行く。
もちろんバーチャルですが、行ったことがないのに、それぞれの実家を体感しました。どこか似た風景や匂いを感じたり。そして現実。福島出身俳優の実家に行ったときは、近くの裏山に除染廃棄物。
3月11日以降、僕らの故郷はそれ以前とそれ以後が明確に線引きされている。「復興」の言葉との乖離。そして違和感。

とにかく稽古場や飲みの場で話をした。
あの日のこと。故郷のこと。あのときの無力感。これからのこと。東京に住んでいる俳優は、どのように故郷に貢献できるのか。結論は。
「まずは面白い芝居を観客に届けよう」
東京で芝居を創り、それを故郷に持っていく。
お芝居を見てもらい、僕らは故郷にお金をおとす。

稽古も佳境に入ったある日。
とある重要なシーンで、実際に被災した俳優の感情が揺れ、稽古が止まってしまいました。
銀河鉄道の夜は水の事故を扱った話。
東北の人間はどうしてもあの日のことをいやでも思い出してしまう。みんなが揺れる。
「東北のお客さんにこの舞台を届けていいのだろうか」

次の日、人を助けるために溺れて死んでしまう主人公についての解釈が演出家より話されました。
主人公の自らを犠牲にした行為は尊い。
でも、必死にブイにしがみついて、自分の命を守った人たちの行為も同じように尊い。
この作品は誰もが身近に感じる「生と死」の話しなのだと。
それぞれの命は他の誰かの生を少しずつ生き、他の誰かの死を少しずつ死に、そうやって過去から未来へとつながっていく。
東北に持っていけるとみんなが確信した。銀河鉄道の夜ができた日となりました。

今回の公演は終了しましたが、今後も継続していくプロジェクトです。今回は始まりです。
TOHOKU Roots Project を今後もよろしくお願いします。

佐藤拓之

想稿・銀河鉄道の夜

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