稽古場日誌

ワークショップ外部活動 中川 佐織 2017/01/10

シニアのための俳優講座 『物語のちから』 リポート

俳優部の倉品淳子が講師を務める、公益財団法人相模原市民文化財団の主催による、シニアのための俳優講座Ⅱ「物語のちから」にアシスタントとして参加させていただきました。
参加者が創作した様々なシーンを、倉品が演出・構成し、最終日には二部構成の発表会を行いました。
60歳以上の女性限定の講座ですが、今回は、今までの俳優講座の経験者が参加しています。
何度かアシスタントについている私にとって、顔なじみの方達が集まる中、毎回新しい発見と参加者の変化を感じる、楽しみな現場でもありました。

まず、全13回の最初の3回を使って、どんなテキストを使うのかを話し合いました。
その話し合いの中から、フランスの有名なシャンソン歌手である“エディット・ピアフ”、映画「風と共に去りぬ」の“スカーレット・オハラ”、日本のお茶の間で有名な“サザエさん”が出てきました。そして、この三人の女性の共通点から、今回の作品のタイトルが決まったのです。

作品のタイトルは「強い女」。

この三人を主人公として、シーン作りをしていきます。
まずは恒例、山の手事情社のワークショップでもお馴染みの《漫才》 《ショートストーリーズ》 《ルパム》 《ぴん》 。
ただ、今回リポートしたいことは、初の試みの「提案稽古」です。
「提案稽古」 とは、参加者に使用するテキストを選んでもらい、そのテキストをどう表現するのか、ルールを提案してもらいます。
そして、出てきたルールを使って、新しいシーンを創作していくのです。
テキストは、強い女で挙がった三人の主人公と関係があるものを使います。歌詞、映画の台詞などなど…。その中から、一つご紹介したいと思います。

提案は、「4人の参加者が、サザエさんのオープニング曲を口ずさみながら、それぞれの陣地にスリッパを並べていく」です。
実際にやってみると、展開がなかなか起こりませんでした。しばらく試行錯誤をしていき、相手の陣地のスリッパを蹴散らしてみようか? とアイディアがでました。
そして、スリッパを蹴散らした瞬間、空間に興奮が起こったのです。
不思議なことに、皆さんがサザエさんに見えだし、隙をつき、しれっと相手のスリッパを蹴散らす姿が強い女にも見えたのです。
実は、これは本番に乗ったシーンでもあります。
新しい試みでシーン作り、その他のエチュードでも様々なシーンが生まれました。
本番では、三人の主人公を紹介する《ぴん》や、介護をテーマとした《ショートストーリーズ》、参加者の家族の生き様が見えてくる《漫才》、女性の鬱屈、解放感が見えてくる《ルパム》などのシーンが生まれ、それらが繋がり、本番は見応えのある内容となりました。
講座が終わり、参加者の皆さんから感想を聞きました。初めて講座を受けた時とは違った視点で、お話される皆さんを見て、日常を演劇的な視点で俯瞰してみているのだと思い、この講座を続けている意味を感じたのでした。

余談ですが、参加者の1人が諸事情により本番の参加が難しくなりました。
本番は客席にいらしていたので、一部が終わったあと、急遽飛び入りで、サザエさんをテーマにご自身で作った“とことん節”という《ぴん》を舞台上で披露していただきました。
こういったサプライズがある、いい意味でのゆるさが、この講座の良いところだと思います。

中川佐織

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