稽古場日誌

Anniversary 研修生 2017/03/18

記念日とドーナツ

ぽっかりと穴があいて、そこでは何かが疼いている。
私たちの多くは、そんなことにも気づかずに、とぼとぼとそこらを歩いているのかもしれない。

わたしにとっての「記念日」、それは、自分が誰なのかわからなくなる瞬間である。
実感するのが怖くて、やたらと身体を動かし、自分を説明しようと踏ん張ってしまう。
動き回り症候群のわたしは、小さい頃からその気配を感じることを恐れてきた。
かといって、その麻酔はいつも完璧に効いてくれるわけではない。

その瞬間に訪れるある種の衝撃は、自分の中にある穴をふさいでくれるわけでもなく、その存在を囃し立て、逆撫でし、その周囲をちょこまかとくすぶってくる。
とてつもなく不快なものだ。
イソジンなんて比ではない、強力な消毒液のようなもの。
そう、ひどくしみるのだ。

いやだ、いやだ、やめてー!!!
小さな頃、怪我するたびに、その傷の痛みよりも消毒されることの方が恐ろしかったことを思い出す。

その不快感とはうらはらに、傷口を開き、そこに潜む何かと向き合うかどうかは自分の意思に託される。
ああ、見たくない、考えたくない、誰だかなんて、どうだっていい。
いっそ穴があいていた方が通気性も良さそうだし、気持ちがいいんじゃないか?
そうやって、目を背けたくなる気持ちは溢れんばかりである。

こうやって言語化するのも嫌な気持ちでいっぱいではあるが、その瞬間をわたしは「記念日」と呼ぼう。
そこで何を選択するかどうかはさておき、全ての選択肢を与えられ、全身全霊でゆらぐ瞬間なんだ。
ぽっかりとあいた穴の中で疼くものと、どのようにお付き合いするのかどうかも含めて全部。

こんなことを考えていたら、コンビニの店頭に並んでいる穴のあいたドーナツが、なぜか、とてつもなく、憎い、敵のように思えてくる。
ちくしょう、貴様は甘いくせに……。
いっそのこと穴のあいていない「あんドーナツ」になってやる。
でも、ちくしょう、シンプルなドーナツの方が売れるんだよな。

訳のわからないことを考えながら、今日も稽古場からの帰路をとぼとぼと歩いている。

結局、ここには書けない「記念日」がたくさんあって、無視してきてしまったものもあれば、ずっと肩をくんできたものもあったな、なんて。

あ、そろそろ行かなくちゃ。
「Anniversary」に登場する8人と一緒に。
妄想のなかの竹やぶへ。

柏原有里

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2016年度研修プログラム修了公演「Anniversary」
日程:2017年3月23日(木)~26日
会場:シアターノルン
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