稽古場日誌

傾城反魂香 倉橋 建 2017/09/23

なぜ今『傾城反魂香』なのか

下丸子×演劇ぷろじぇくと2017の第三弾として上演される『傾城反魂香』。
なぜ今この作品なのだろう?
実は頭を悩ませていた。

近松門左衛門の作品は義理や人情をテーマとして書かれている作品が多い。
『傾城反魂香』においても随所でそれらが書かれている。
しかし現代社会を生きる我々の義理や人情と当てはめて考えるには、どうにも納得出来ない事が多い。
例えば、一度結婚の約束をした女がいるのに、仕えている上司がすすめる女と婚礼の儀を行ってしまい夫婦になる、という場面がある。
いやそこはうまい事やれよ! と突っ込みたくなる場面だ。
更に夫婦になるのを諦めきれない元婚約者は、現嫁に対して「旦那を貸してくれ、ちょっとの間だけ夫婦になりたい」といい、現嫁は了解してしまう。
いいのかよ! お前自分が正妻だからって余裕ありまくりだろ! 嫌な女だなおい!
そんな突っ込み所が他にもある。
それはそれで面白いが、今稽古をしている中で、笑い所をメインにシーンを作ったりはしていない。
いたって真剣に、テキストに取り組んでいる。

どうにもテキストから読み取るには、主人公である元信の心情は余り語られていないという印象だ。
そして、そこに横たわっている各々の背景も、今の我々のそれとは違うものである。
なおのこと、なぜ今『傾城反魂香』なのか? と頭を悩ませてしまう。
お客様に何をもって、面白い、観に来てくれと言えるだろう。
一体何を現出させようと、今稽古に励めばいいのだろうか。

そんなことで悶々としている時に、そういえばこの作品は大和絵に関わる人間が多く出てくるな、とそんな当たり前のことに気がついた。
この作品は約300年前に書かれたものだ。
300年たった今、当時の彼らの生き様をどの様に現代に伝えるか。
それが大事なんじゃないか。
変わらないもの、変わったもの、口に出されない感情。
我々だけでなく、観ていただいた方も一緒に作品を読み解くような。
そんな作品に出来ればいいなと、個人的には挑んでいる。
300年という歴史を感じつつ、この作品を現代に違和感なく現出させられるなら、面白いものが出来上がると信じて。
本番まで1ヶ月を切った。
まだまだ面白くできる。
どんなものが出来上がったかは、どうか劇場で見ていただきたい。

倉橋 建

*******************

『傾城反魂香』
2017年10月13日(金)~15日(日)
大田区民プラザ 大ホール
公演情報はこちらをご覧ください。
keiseihangonko_omote

稽古場日誌一覧へ