稽古場日誌

ぺとりこおる 研修生 2018/01/10

熱中の残骸

現在、研修プログラム修了公演『ぺとりこおる』に向けて絶賛稽古中です。
公演のテーマは「熱中したこと」「忘れていたこと」です。
どんな作品になるのか、ご期待下さい。

**********

自室にえんじ色のベースギターがある。
中学3年の冬にお年玉で買ったものだ。

当時よく遊んでいた友達がロック好きで、ギターがめちゃめちゃ上手かった。
一度彼の家に遊びに行った時、彼のベースギターを弾かせてもらったことがある。
本格的なアンプに繋げ、チューニングもばっちりだった。
軽く指で弦を弾くと、ライブで聴くような重低音が部屋に響き渡った。
なんだかすごく気持ちが良かった。
彼は初心者でも弾ける曲を教えてくれて、その日は一日中ひたすら練習した。
全然飽きなかった。
何もできないゼロの状態から、メキメキと上達する快感。
最初の8小節をやっと演奏できるようになった頃には、すっかりベースの虜になっていた。
思えば彼もなかなか悪い奴なのだ。
やたらとぼくを褒めまくる。
才能あるよ、初日でそこまで弾けるのはすごい、リズム感良いね。
並べ立てられた美辞麗句に僕はすっかりその気にさせられた。
その日、高校生になったら一緒にバンドを組もうと約束して帰宅した。

僕がお年玉をはたいてベースギターを買ったのはその1ヶ月後だ。
受験勉強の合間や受験後の春休み、高校入学後もほぼ毎日ベースの練習をした。
友達とは違う高校だったが、いつか彼と同じくらい上手くなってバンドを組むことを夢見て練習に励んだ。

ただ、高校生活は思っていたよりキラキラしていた。
下校途中にカラオケに行けたし、クラスのみんなは良い奴ばかり。
軽音部に入ろうと思っていたが、マネージャーの可愛さに惹かれバレーボール部に入った。

毎日が、部活に勉強に忙しく充実していた。輝いていた。
高校の違う友達とは疎遠になった。
この頃から、えんじ色のベースギターは自室を飾るただのオブジェになった。

自室には今もえんじ色のベースギターがある。
埃にまみれて、チューニングはあべこべだ。

遠藤瑞季

**********

2017年度研修プログラム修了公演「ぺとりこおる」
日程:2018年2月21日(水)~25日(日)
会場:大森山王FOREST
詳細はこちら

2018年度研修プログラム「俳優になるための年間ワークショップ」
オーディション開催中
詳細はこちら
■年間ワークショップ参加者体験談
■年間ワークショップカリキュラム

稽古場日誌一覧へ