稽古場日誌

テンペスト(2018年) 佐々木 啓 2018/03/28

僕にとっての『テンペスト』

僕が入団して1年目の本公演が初演の『テンペスト』でした。
しかし実は僕、初演の『テンペスト』には出演していません。
稽古中に体調を崩してしまい急遽降板することになったのです。

結局『テンペスト』の稽古の途中から5ヶ月ほどお休みをいただいて養生して、その後劇団に復帰したのですがそこからが大変でした。
それまで自分に対して「要領が悪くて不器用でセンスとかは無いけど、コツコツ努力をして誠実に稽古する人」というプラスのイメージがあり、それを長所だと思い誇らしくも思っていました。
しかし、病気とはいえ本番から途中で逃げてしまった、その事実が先程の自分に対するプラスのイメージを粉々に打ち砕いてしまったのです。
そうなると何を自分の軸にしていいのか、拠り所にしていいのか分からなくなってきて、今までより一層自分に自信が持てなくなってしまい、今まで出来ていたことさえも出来なくなってしまうという泥沼に陥ってしまうのです。
頭で考えても仕方ないことなのにどうしても悶々と考えてしまうのです。

気付いた時には好きで始めた演劇が嫌いになっていました。
このままではいけない、と思いあがきました。
より一生懸命稽古に取り組みました。
1人で40分位の作品をつくり稽古場で発表もしてみました。 
少しでも現状を打破する突破口を見つけたかったんです。
でもなかなか突破口なんて見つからないんです。
そんな感じで数年が経ち「もう限界かな」と思っていた時、偶然中学校以来の友人と話す機会がありました。
その時こんな話をしました。

僕 「もう演劇辞めようかな。」
友人「それだけは絶対に止めた方がいい。佐々木は演劇やっていた方がいいよ。」
僕 「え、なんで?」
友人「だって気づいてないかも知れないけど、演技とか演劇とか劇団について話してる時が一番生き生きしてるよ、オマエ。」

ひょっとしたら、上手くいかない現実にいじけて、演劇が嫌いだと思い込もうとしていただけで本当は今も演劇が大好きなのかも知れません。
そう思えるようになってからは少しずつ生きやすくなっていきました。
嵐が荒れ狂う大海原で溺れ苦しんでいたと思っていたけど実はそれ自体が幻なのかも、と。
葛藤、苦悩又はそれから逃れる為の妄想を嵐(テンペスト)だとすると演劇自体が僕にとっての『テンペスト』なのかも知れませんね。

今回キャストとして参加して世の中の誰もが先程記述したような葛藤、苦悩といった『テンペスト』を抱えているのだろうと思いました。
それはきっと日本人だけでなく今回ツアーでまわる国の人達も同じだと思います。
そういった普遍的なところをヨーロッパの人達に見せられたらな、と思います。
自分にとっては初の海外公演です。
張り切っていきたいと思います!

佐々木  啓

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劇団山の手事情社ヨーロッパツアー壮行公演『テンペスト』
(下丸子×演劇ぷろじぇくと2018特別企画)
日程=2018年4月12日(木)~13日(金)
会場=大田区民プラザ 大ホール
詳細はこちらをご覧ください。

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