稽古場日誌

テンペスト(2018年) 鹿沼 玲奈 2018/03/30

桜とおばさんと、それから私

桜の季節になりましたね。
私は今年は、いつ桜が咲き始めたのか、全く知りませんでした。
毎日稽古をしていて、気づいたら咲いていたんです。
なんだか冬に取り残されてしまったようで、寂しかったです。

そんな私に「稽古場の近所の、お寺のしだれ桜を見にいきなさい」と、親しくしてくださっている池上のカフェのママさんが、連絡を入れてくれました。
稽古場のある大田区池上は本門寺を中心に、古い建物がたくさん。
なんだか懐かしい雰囲気なのです。

稽古前にふらりとお寺に向かうと、朝の光の中、青空の中、桜が満開でした。
お寺の黒いひさしと相まって、なんとも幻想的な姿で……100年も200年も、もしかしたら池上だもの、1000年もそこにいるのかもしれない……どっしりとした幹に、花びらがぶわわわっと、盛りだくさんです。
私はその姿に圧倒され、口からはため息が漏れるばかり。
その場に棒立ちになってしまいました。
完璧なしだれ桜を見た、と思ったんです。

そんな私に話しかけてきたおばさんがいました。
「なんてきれいなんでしょうね」
「心が洗われますね」
温かい会話がポツポツと続きます。
そしておばさんは最後に言いました。
「まあ、2年後か3年後の方が、もっときれいになっていると思いますよ」
私は……言葉が出ませんでした。
おばさんがどういう意味でその言葉を発したのかはわかりません。
でも、私は『この完璧な桜でさえ、2、3年後には更に美しくなる。そうやって、長い年月を過ごしてきたのだ。そしてその途上なのだ。完成なんてされてなかったのだ。私は2、3年後どうなっているのだろう。この桜に恥じない私になっていたい、絶対に』……様々な衝撃と思いが、涙とともに溢れてきたのです。

このヨーロッパツアーは、私にとって、役者人生初めての海外公演です。
今回ツアーメンバーに選ばれて、超絶テンション上がっていました。
ヤッホー! やったるで! って感じでした。
でも、今は、浮かれてなんていられないよな、と思い直しています。
なんだかあの桜に、とても失礼なことをしているな、と思ったんです。

気づかせてくれたのは、大田区の方々、大田区の桜。
地元の皆さんに、「いってらっしゃい!」とあたたかく見送っていただけるように、まずは壮行公演、しっかり務めたいと思います。

ぜひ、劇場に足をお運びください。

鹿沼玲奈

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劇団山の手事情社ヨーロッパツアー壮行公演『テンペスト』
(下丸子×演劇ぷろじぇくと2018特別企画)
日程=2018年4月12日(木)~13日(金)
会場=大田区民プラザ 大ホール
詳細はこちらをご覧ください。

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