稽古場日誌

テンペスト(2018年) 安部 みはる 2018/04/04

フィルター

『テンペスト』の稽古も終盤に差し掛かっている。
通し稽古が始まり、全体像が見えてきた。
小道具や衣裳が出来てきて、セットも本番と同じサイズのものを設置している。
毎晩遅くまで稽古に励む日々だ。

さて、私事ではあるが、桜の満開を待たずに環(たまき)ちゃんが逝ってしまった。
14歳だった。
環ちゃんとは若かりし頃の私がネットで里親募集のページを探してもらってきた雌猫だ。
文字に書いても、言葉に出しても涙が止まらない。
曲がった尻尾、ひげのところの斑点模様、毛並み、耳や瞳が忘れられない。よく噛みつかれたっけ。
若いころの私の不安定な心を支え、その名の通り家族の環になってくれた。

はっきり言って稽古どころじゃない。
全く整理のつかない、フィルターのかかった心で稽古場に戻ると、『テンペスト』は全く別物に見えた。
島流しに遭った人の見える世界はどんな感じだろう。
息子を失ったかもしれないと嘆く人の心情はどんなだろう。
奇怪な島で迷子になる人の混乱はどんなだろう。
その人たちを取り巻く妖精とはどんな存在だろう。
私たちのやっていることはまだ全然足りない。
少し整理がつく。演劇があってよかった。

観劇にいらっしゃるお客様はいろいろなフィルター越しにお芝居を見る。
全員別の、フィルターだ。
私たちより人生経験の豊富な方に、「そんなのうそだ」と言われない作品を作らねばならない。
最後まで真摯に作品に取り組み、まずは大田区民プラザで、月末にはルクセンブルク、ルーマニアで山の手事情社なりの、私なりの嵐を起こせたらいいなと思う。

安部みはる

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劇団山の手事情社ヨーロッパツアー壮行公演『テンペスト』
(下丸子×演劇ぷろじぇくと2018特別企画)
日程=2018年4月12日(木)~13日(金)
会場=大田区民プラザ 大ホール
詳細はこちらをご覧ください。

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