稽古場日誌

テンペスト(2018年) 橋口久男 2018/05/21

飛行奇譚(ひこうきたん)

ルクセンブルグ~ルーマニアのツアー、無事終了いたしました。
ルクセンブルグ、ルーマニアともに素敵な劇場で公演をさせて頂き、大変貴重な経験をいたしました。
仕込み、本番とも壮行公演の経験がだいぶ生きたと感じています。
壮行公演ならびにヨーロッパツアーを応援して頂いた皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。
ありがとうございました!

さて、ヨーロッパ渡航は私の人生において初めてのことで、ヨーロッパはさぞ超立派なんだろう! という憧れを抱いて飛行機に乗り込みました。
先ず最初の目的地ルクセンブルグへは、イスタンブールを経由して向かいます。
成田からイスタンブールまでは約12時間。座席の間隔が狭いので、ずっと座り続けているのはかなりキツい。日本人でさえそうなんだから体の大きい外国人なら尚更です。

途中でトイレに立つと、背の高い外国人男性が1人立っていたので隣に並びました。
すると”Can you speak English ?”と話しかけられました。
英語は話せないけど”I can’t speak English”と答えるぐらいはできる自信があります。
でもそれだと英語をしゃべることになってしまうので、ここはいっそ全く分からないフリをするべきではないのか……などと逡巡していると、「何で話せないんですか?」と今度は日本語で聞いてきたのです。
その瞬間、私の心は乱気流に突っ込みました。
……日本語、話せるではないか!

なんでも彼は、日本の大学で研究者として働いているんだそうです。
私を辱しめたことは一切意に介さず、彼は実に流暢な日本語で、さらなる難題を投げ掛けてきました。
「日本人はなぜいつもマスクをしているんですか?」
確かに自分もそのときマスクをしていました。言われれば確かに疑問を持たれる日本人の習慣かもしれません。
個人的には一応、体調を維持するためという理由はありますが、マスクをするのがクセになっていて、とくに人が密集しているような場所だとなんとなくマスクをしていないと不安を感じるようになっています。
ただ、「日本人はなぜ~」と聞かれると……私の答えが日本人を代表する答えとして相応しいものなのかどうか、そもそも私なんかがさも日本人の全てを知っているかのように話してよいものか……と、大いなる葛藤の渦に巻き込まれてる最中、「日本の人は夏でもマスクしてますよね?」と段々追及が激しくなってきました。
そこで(やや面倒くさくなったので)、「他の日本人のことは分からないけど、私は俳優だからです」と素直に打ち明けることにしました。俳優=喉を守る→マスクをする、この構図は世界共通で納得してくれるはずです。
きっと。
その結果、納得してくれたのかどうかはさておき、驚いて興味を示してくれました。
実はその人も演劇が好きだそうで、どこでやっているのかと聞かれました。大田区の池上で稽古をしていると言うと「池上、知ってます」と!
なんとその方は池上線沿線に住んでいたのです!
まさか高度1万メートルの上空でローカルな話ができるとは!
素敵な出会いに感謝し、“ヤマノテジジョウシャ”という呪文を唱えておきました。きっと彼は今後の公演を観に来てくれるはずです。
さて、おにぎりが大好きで、機内食のサービスとして用意してあるおにぎりを2~3個持って席に戻った彼は、実はトイレに並んでたのではなく、ただ足を伸ばしに来てただけとのこと……。
わー! 紛らわしい! トイレ空いてるし~!!

私にとって、そんな出会いから始まったヨーロッパツアーでした。

橋口久男

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『テンペスト』ヨーロッパツアー報告会
■日時:2018年8月5日(日)15時~
■会場:大田区民プラザ 展示室
■料金:無料
■予約・問合せ:6月18日(月)予約開始
劇団山の手事情社
予約フォーム
TEL:03-6410-9056
MAIL:info@yamanote-j.org

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