稽古場日誌

テンペスト(2018年) 倉品 淳子 2018/05/25

メイクに関する徒然

 海外公演に限ったことではないのですが、劇団員は公演ごとに俳優とは別の役割を言い渡されます。例えば、点呼係、ケータリング係、小道具係などです。
 今回のヨーロッパツアーで、私、倉品はメイク係を担当しました。プランから道具の管理まで、メイクに関すること全般です。大筋は初演の山口笑美さんのプランを引き継ぐ格好となり、そんなに大変ではありませんでしたが、再演にあたってコンセプトがはっきりし、メイクを再考する部分も出てきました。
 一番大きく変わったのは、主役の山本さん演じるプロスペローです。初演は、ほかの出演者と同じく、顔に白い仮面をつけているという想定のメイクでしたが、今回、全体をプロスペローの見ている世界と考え直し、プロスペローだけ違うメイクにしたいと、山本さんと安田さんに提案しました。
 大田区民プラザでの壮行公演では、肌が古い壁のようになっているというイメージで試されましたが、でも、なんか違う! という思いがあり、再度修正を加えました。もっと普通の肌色を使うようお願いしました。山本さんは普通のメイクはなるべく避けたいと言っていましたが……。

 結果、ほかの人たちとの差異が出て、よくなったように思います。壮行公演の時から、なぜ気がつかなかったのか? 自分のことに精一杯で、気が回らなかったというのが正直なところ、反省しきりです。どうしても人前で表現すると思うと勝手に追い詰められて、全体を見る目線がなくなってしまいがちですが、俯瞰した目線が絶対に必要なのです。

 それは、演劇に限らず、なんにでも言えることかもしれませんね。

 私、倉品が演ずるミランダのメイクは初演とはだいぶ変わりました。そして、このメイクは私の演劇人生のメイクの中で一番といってもいいほど愛くるしいものになりました。自分の顔を見て臆せず「かわいい!」と叫ぶのは初めてといってもいいくらいです。

 メイクって私にとっては本当に大事です。メイクする時間も役に入っていく大切な時間だと考えています。わくわくと日頃の自分から、異世界の住人に変身していく……。
 そうか、だから山本さんは普通のメイクを避けているのかしら? なんとかく繋がったところで、おこがましくもミランダの比較写真をあげます。ね、変わったでしょ?

IMG_3179

初期のメイク

写真2

メガネあり

 そして今度は、変わらなかったところですが、ミランダはメガネをかけています。それは初演の時にそうしたから。プロスペローと二人っきりで、本に囲まれて長い時間を過ごすうち、メガネが必要になったという解釈です。しかし、再演のシーンを作るうち「あれ? メガネいらないのでは?」と思うようになり、コンセプトにあわないから一時はなくそうと思ったんですが、メガネのあるなし写真を見比べてみてください。なぜか、
あるほうがいいでしょ? なんか変! というかひっかかるというか……。

写真3

メガネなし

 「メガネはなくしたほうがいいですか?」と安田さんに質問したことがありました。が、彼は「う~ん、あったほうがいいだろう!」と言い放ちました。言葉では説明できない。コンセプトでは片付けられない、感覚での判断があるということがわかります。むしろ、表現の世界では大事なのではないでしょうか?

 長くなりましたが、最後に、ルーマニアでメイク担当のスタッフの女性に「メイクはだれ?」と言われ、「はい、私です。」と、まるで10年はやっているスタッフのようなしたり顔で答えると「 これ何ルーメンあるんだよ!」ってつっこみたくなるくらい明るいメークアップルームに通され、「ここ自由に使っていいから。私はあなた方のやりたいことのためには、助けはおしまないわ。」というようなことを英語で言われました。(多分)
 建物自体はとても古いものですが、演劇を囲む人と設備の豊かさを感じずにいられませんでした。

倉品淳子

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『テンペスト』ヨーロッパツアー報告会
■日時:2018年8月5日(日)15時~
■会場:大田区民プラザ 展示室
■料金:無料
■予約・問合せ:6月18日(月)予約開始
劇団山の手事情社
予約フォーム
TEL:03-6410-9056
MAIL:info@yamanote-j.org

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