稽古場日誌

テンペスト(2018年) 名越 未央 2018/06/11

違和感の宝庫

芝居を創るということは、日常生活のなかで感じる様々な違和感に対する「なんでやねん!」というツッコミで観客を魅了することだと思っている。
そして海外ツアーはまさに、芝居創りの種である違和感の宝庫だった。

ルクセンブルクにて。
・空港に着くなり発覚したロストバゲージ。ほとんどのトランクが東京に取り残されたままだと聞かされ驚愕する。仕方なく街に日用品の買い出しに出たのだが、その日は日曜日=休息日。家々やお店が建ち並ぶ街中なのに、ほとんどが閉店、出歩く人もあまりいない光景はゴーストタウンのようでゾクッとした。必要なものが何ひとつ買えないことにもガックリ。24時間365日稼働している日本を見たら、この街の人はいったいどう感じるのだろう。
・貸切バスで移動中に急ブレーキがかかった瞬間、舞台監督本氏が飲んでいた缶ビールとともに通路を数メートル吹っ飛んでいった。てぇへんだてぇへんだとみんなが騒ぐ中、私ひとり「ビデオに撮り逃した」ことにショックを受けていた。私はツアーの様子を撮影する記録係だったのだ。先輩斉木&中川が稽古で怒鳴り合いのケンカを始めた時も、後輩松永が人のお弁当を間違えて食べてしまったかもしれないと泣き出した時も、後輩鹿沼がスマホをなくしたと大騒ぎしたのち勘違いだったことがわかって路上で土下座した時も、私はとっさに思った、シャッターチャンスッッ!
カメラを持つと人間誰しも、当事者でないかのような冷静さと冷酷さを持ち、それに対する微妙な罪悪感と苛立ちを覚えるものなのね、と報道カメラマンの心の一端に触れたかのような気持ちになった自分に違和感。

ルーマニアにて。
・ホテル(四つ星)が断水した。ということを伝えるためフロントから各部屋に電話がかかってきたのだが、開口一番「そこは何号室ですか!?」としつこく聞かれた。他の部屋も同様だったらしい。どこにかかるかわからないのか、かけた瞬間忘れるのか。
・終演後、舞台裏で劇場スタッフに「オメデトウ!」とハグされた。おめでとう!??? 日本ではこういう時「お疲れ様」が普通だ。スポーツと違って演劇は勝敗がわかりにくい。賞をもらったわけでもない。なのに「おめでとう」とは。この国では、おめでとうとお疲れ様がだいたい同義なのか? 満席のお客様にスタンディングオベーションをいただいたので公演は成功したと判断してくれたのか? よくわからないけれど、とにかくとても嬉しくて目頭が熱くなったので、曖昧なままありがたく頂戴しておくことにした。

帰国後、日本にて。
・観劇に行き、前説(ケータイの電源をオフに、とかのアレですね)が丁寧すぎることに気づく。そういえば海外では一度も聞かなかったのだ。とりわけ気になったのは劇中の喫煙について。
換気扇の下で3回喫煙シーンがあると言い(ネタバレ!)、しかしそのタバコは薬局で買ったもので(どうでもいい!)喉の治療に用いる無害なシロモノなので、お客様の健康にはたぶんあまり害にならないと思う(なぜそこは弱気!?)などと粛々と伝える。おかげで観劇中、せっかくハードボイルドないいシーンだったのに「あ、これは無害な煙ね」なんてくだらないことを思い出して気分をぶち壊された。これはけっこうな悪事ではないかと思う。
そもそもケータイの電源切れとか、飲食喫煙禁止とか、地震が来たらその場で待機しろとか、タバコは無害だから心配するなとか、そんなの大の大人にいちいち言うことかしら。それくらい自己判断に任せられないのか、なんだか急に恥ずかしくなって来た。

以上が、私が感じた違和感ベスト5だ。
今回は20人以上の大所帯でのツアーだったので、それぞれの違和感を挙げていったらおびただしい数になるに違いない。さてそんな珠玉の違和感たちから、いったいどんな芝居が創れるだろうか。さらにはどんな俳優が育ち、どんな劇団になっていくのか。海外ツアーの余韻を、日本のお客様と共に楽しんでいきたいと思う。

名越未央

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『テンペスト』ヨーロッパツアー報告会
■日時:2018年8月5日(日)15時~
■会場:大田区民プラザ 展示室
■料金:無料
■予約・問合せ:6月18日(月)予約開始
劇団山の手事情社
予約フォーム
TEL:03-6410-9056
MAIL:info@yamanote-j.org

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