稽古場日誌

テンペスト(2018年) 髙坂 祥平 2018/06/28

初めての世界

初海外。
成田から飛行機に乗り、まずトルコのイスタンブールに着いた。そこから乗り継ぎでルクセンブルクに向かう。15時間近くは飛行機に乗っていたと思う。
当たり前だが機内を見渡せば外国人ばかりで、窓から外を見れば、ここは日本じゃないと実感できた。空気が日本と全然違って、ここに居る私が私でないような感覚があった。
目的地が近づけば近づくほど、もう日本に帰れないかもしれないと思ったし、そういう妄想もした。
絶対しないが、妄想の中では、このまま失踪して日本に帰らずここで生活するとしたらどうなるかとか、色々考えた。

本当に何もかも有意義な時間に感じられた。劇団員と芝居を創ってる時間も当たり前にそうだが、私にとっては現地の人を観察している時が一番楽しかった。
ルクセンブルクは、比較的時間がゆっくり流れている印象があり、何より街全体が1つの大きな生き物のように呼吸している感じがした。
よく、子供たちが、音楽をラジオかなんかの機器で大音量で流しながら、遊歩している姿を見かけた。思い返せば、私が子供の頃にやりたかった事だ。
そんな事を日本でやったらすぐ通報されて警察で親共々、説教食らうことになると思う。
でもここでは違った。
そういった事を心穏やかに眺められる余裕があるなと思った。結構衝撃的だった。
私たちの居る日本はあまりにも時間の流れが早く、心がいつも後回しで、効率優先になっている。
ルーマニアは、ルクセンブルクに比べると騒然としていた。人々がとっても元気だった。
どちらかというと日本に近い雰囲気だ。
街中をローラースケートで移動している人が結構いて、それも私がやりたかったことの1つだ。日本でいつか絶対やってやろう。

当たり前だが、向こうでは言葉が全然通じない。
我々の芝居も、台詞は日本語のままで、スクリーン字幕でルーマニア語と英語を出した。
他のカンパニーの芝居をいつくか観劇したが、言葉が全然わからないから、役者の佇まいだとか雰囲気を見ていたが、それでも十二分に楽しめた。

シェイクスピアの『尺には尺を』を観劇している時、隣に座っていたフェスティバル関係者が私の顔をちょこちょこ見てきた。
特に喋ったわけじゃないけど、私が笑うと、それを確認して笑っていた。
なんとなく、「この日本人にウケるかな、この芝居……」と観察されているようだった。
それで案の定、私が笑うのを見て、「良かった! 日本人にもウケてる!」と笑うのである。

あれは不思議な体験だった。
お互い言葉は通じないけど、お芝居という共通言語を持っているようで嬉しくって、ちょっと涙がでた。

こういう体験は、書いたらきりがないぐらい。
本当に充実した時間だった。
今回のこの旅公演が自分の壁をぶち壊してくれたのは間違いない。
私自身の細胞が、向こうで色んなものを吸収して形を変えて、今ここにいる、そんな感覚。

髙坂祥平

**********

『テンペスト』ヨーロッパツアー報告会
■日時:2018年8月5日(日)15時~
■会場:大田区民プラザ 展示室
■料金:無料
■予約・問合せ
劇団山の手事情社
予約フォーム
TEL:03-6410-9056
MAIL:info@yamanote-j.org

稽古場日誌一覧へ