稽古場日誌

テンペスト(2018年) 河合 達也 2018/07/10

海外の劇場事情

 ルクセンブルクのエッシュ劇場は外観も内装もとても奇麗な劇場でした。座席は座り心地が良く2階席まであって、舞台裏が広く、舞台裏が直接搬入口に繋がっていて利用しやすかったです。ただ、物を捜しに劇場内をぶらついているとオートロックで戻れなくなったり、明かりが漏れるからと倉庫の扉を試しに閉めてみたらココもオートロックで開かなくなったり、あちこちに罠(?)が仕掛けられていました。日本ではこうしたトラブルも簡単に解決できるのですが、海外だと言葉が通じないため中々解決できなかったりします。
 スタッフの方達は皆優しく、トラブルが付き物の海外公演でも積極的にサポートをして頂けました。どんな頼み事でも「いいよいいよ! 持ってきてあげるよ!」とか「それならうってつけの物がある!」と、意気揚揚と応えてくれる姿はとても頼もしく思いました。
 実はルクセンブルクという国は公用語が3つあり、ある方はフランス語しか話せず、別の方はドイツ語しか話せないなど、スタッフ同士でも通訳を介することがあります。働く時間が決められているためか、昼と夜でスタッフが入れ替わります。なんだか不便な気がしますがそれが普通で、日本を顧みると、そもそもここまでサポートをしてくれるスタッフはいないのが現状で、演劇や劇場の地域への根付き方に日本との違いを感じました。

 ルーマニアのマリン・ソレスク劇場は、エッシュ劇場とは違ってとても歴史の長い劇場でした。入った瞬間にすす臭い感じがして、広い倉庫には今まで使っていた、或いは今でもレパートリーで使っているのかもしれない様々な大小美術道具が詰め込まれていました。中でも驚いたのが、劇場の床です。基本的に靴を履いて公演するのでしょう、靴下で歩いたら3歩で足裏が真っ黒になるくらい汚れていて、舞台奥の方では何ヶ所か陥没(!)しているところがありました。今回裸足で歩くキャストもいるためその辺りを凄く気にして養生に当りました。座席は600程あり、舞台を俯瞰して見るような高低差のある客席で、エントランスに行くと、かつてこの劇場で行われた様々な公演の写真や、この劇場に携わってきたであろう方達の写真が飾られてありました。エントランスから外に出れば広場があり、そこで大音量で音を流して演劇学生達がダンスを披露したり、市街地でもゲリラ的にお芝居がされてたりと、この街一帯で演劇を楽しんでいる様子が伺えました。

 海外ツアーに初めて参加しましたが、何よりも各国での演劇の根差し方の違いを感じられたことが感慨深かったです。特にルーマニアの街はとても演劇が盛んで、誰もが楽しめる娯楽として存在しています。それに比べると日本の演劇はとてもクローズドで、閉じている分密度が濃く、微細な表現による空間の変化を感じられる、実は深く演劇を堪能できる国なのかもしれないと思いました。どちらにしても演劇とはとても流動的で、その場その時に合った存在の仕方があるのだなと、海外ツアーを経て感じました。

河合 達也

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『テンペスト』ヨーロッパツアー報告会
■日時:2018年8月5日(日)15時~
■会場:大田区民プラザ 展示室
■料金:無料
■予約・問合せ
劇団山の手事情社
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MAIL:info@yamanote-j.org

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