稽古場日誌

テンペスト(2018年) 中川 佐織 2018/07/13

言葉がわからずとも

言葉がわからずとも、芝居を観て涙する。
海外公演のとき、プレッシャーと同時に楽しみなことがあります。
それは、海外の劇場でお芝居を観られることです。
ルクセンブルクでは、山の手事情社の『テンペスト』の上演だけで他の芝居は見られませんでした。所変わってルーマニアではシェイクスピアの演劇フェスティバルに参加しました。ルーマニアの団体はもちろん、日本以外の他の国からの参加団体もいます。
それら全ての団体がシェイクスピアの作品を上演するわけです。
渡航前から観劇できる日があると聞いていたので、こっそりワクワクしていました。

いくつかの作品を観ることが出来たのですが、興味深かったことは、海外の役者さんがオーソドックスかつストレートに芝居をしていたことです。
言語が分からなくても、分かりやすいのです。
こういう時、山の手事情社の稽古場では、「状態がある」という共通言語で表現します。
登場人物として舞台の上に存在しているという意味です。
その中でも、「状態がある」役者さんで、お気に入りだったのが「マクベス」のダンカン王役を演じていたルーマニアの役者さんでした。
ダンカン王はマクベスに暗殺される王様なのですが、「王様だぞ!」と偉ぶる人ではなく、何も言わなくても分かる。この人はみんなを愛している。しかも老いぼれで死にかけだ。無抵抗な王様だ、と。周りのアンサンブルも相まって、その人の凄まじい愛と死のオーラに思わず涙が出てしまったのです。目が離せない。
ストーリーと関係なく自分の感情の中へ入り込まれてしまう感覚に、ドキドキしました。もうその後から死人の役でちょっと出てきただけでも「待ってました!」と。何かしてくれないかしら? と見つめてしまい、にやけてしまうのです。

舞台を観る楽しみとともに、役者の凄さってこれだよな、と改めて気づかされた瞬間でした。
あの役者さんはどこにアクセスしてるの? 電波なの? 幽体? どうやれば、そこに行けるの? あぁ! もぅっ!!
国も人種も性別も違うのに、伝えられる役者さんに嫉妬と羨望です。

明後日の自分の本番に焦りを感じた観劇体験でした。

中川佐織

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『テンペスト』ヨーロッパツアー報告会
■日時:2018年8月5日(日)15時~
■会場:大田区民プラザ 展示室
■料金:無料
■予約・問合せ
劇団山の手事情社
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TEL:03-6410-9056
MAIL:info@yamanote-j.org

 

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