稽古場日誌

あたしのおうち 喜多 京香 2019/02/03

大きな寄り道

山の手事情社の研修生になると決まった時、私はとてもワクワクしていました。元々、幼い頃からダンス一筋だったので、別の形で板の上に立つという「寄り道」のような機会は私にとって貴重だったのです。きっと、大きな収穫が得られるだろうという期待でいっぱいでした。

しかし、いざ研修期間を過ごすと、想像とは別のものが私の中で渦巻いていました。
とにかく仲間と共に強烈な空間を多く過ごす研修生稽古の日々、嫌なほど自分がよく見えるのです。舞台上以前に仲間にさえ、自分の発言を、存在を晒すのがこんなにも怖いことだったのかと。ある日の稽古で行われた《フリーエチュード》では、卑屈になって一言も喋らなかったことさえあります。とにかくショックを受けてばかりの毎日でした。舞台の上に立つ前に、じっくり私を見つめる。自分と向き合う時間がこんなに多いのは生まれて初めてでした。今まで意外と、私は自分のことをほったらかしにしていたのかもしれない。そう思います。

さらに、本番が近づくにつれ自分と仲間の関係がどんどんシビアになっていきます。正直、「もうこいつらとは会いたくない」とさえ思うのです。仲間に対してそんなことを思うのも初めてでした。平和主義の私にとっては、悲しいものでもありました。しかし、これこそが本当の「関係」というものだろうと思います。

「自分」と「他人」を見つめる期間は、新しい課題がたくさん見つかります。それは、芝居に限らず「生き方」にまで差し迫る。そんな一生逃げられないものと向き合わせてくれるのは演劇なのだと確信し、人生の大きな「寄り道」をしようと、私は劇団員になりました。

喜多京香

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あたしのおうち

2018年度研修プログラム修了公演『あたしのおうち』
日程:2019年3月6日(水)~10日(日)
会場:大森山王FOREST
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2019年度研修プログラム「俳優になるための年間ワークショップ」
オーディション開催中
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