稽古場日誌
幼稚園に入る前の年、当時の教育テレビで観た映像が衝撃的だった。
白い大きな紙の上に自分より少し年上の子供たちが集っている。
子供たちは手や足にインクをつけ、ペタペタと手形・足形をつけている。
その楽しそうな子供たちを観てすぐに言った。
「おかあさん、これやりたい!」
母はさらっと
「幼稚園に入ったらきっとできるわよ。」
と言った。
今思えば大人が返事に困って受け流した答えだが、当時2~3歳の私は完全に真に受けた。
家では汚れるからできないけれど、幼稚園に入ったらこんな楽しそうなことができるのか!
普段いい子ちゃんだった私は自ら家を汚して怒られないように、幼稚園の入園を待った。
しかし実際入園して、今か今かと待っていたけれど、大きな紙に手形や足形をつける日はなかなかやってこない。
かといって当時3歳のシャイな私が、テレビで観た映像を説明し、これをやりたい旨を先生に伝えるのはハードルが高すぎた。
結局いつの間にか、手形や足形をつける夢を諦めてしまった。
その代わり……でもないが、やってきたのは所謂学芸会だった。
子供たちのお芝居のため、一役に何人もの園児がついているような演劇だが、練習も本番も大好きな時間だった。
私は手形や足形をつけるかわりに、もっとワクワクすることに出会うことができたのだ。
日常生活ではやってはいけないことが、演劇ではできる、ということが楽しかったのだろう。
普段、先生や親から「お友達には優しくしましょう」と言われるけれど、私が演じたトロルは三びきの子やぎを襲う。
もっと言えば、演劇では当たり前の「大きな声を出す」ということも、家でやったら両親から怒られてしまう。
……と、今ならそのようなことが言えるが、当時は当然わからなかった。
それから大分月日が経って劇団山の手事情社の研修生となったとき、劇団員の方々から何度も言われた。
「普段の生活では許されないことが、舞台上ではできる。」
あの頃のワクワクはこれだったのか! と、四半世紀経ってから気付くこととなった。
今年の研修生も、同じようなことを言われただろうか。
彼らの「やってはいけないこと」を観に、是非劇場へ!
榎本倫子
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2018年度研修プログラム修了公演『あたしのおうち』
日程:2019年3月6日(水)~10日(日)
会場:大森山王FOREST
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2019年度研修プログラム「俳優になるための年間ワークショップ」
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