稽古場日誌

あたしのおうち 水寄 真弓 2019/02/26

きっかけは水曜日

部活とバイトに明け暮れた学生時代だった。
就職をし、順調な会社員生活を過ごしていた。
ただ、お休みが水曜日で友達と休みが合わず、会社の同期と遊ぶばかり。
ところが私たちの近場の遊び場「町田」は、デパートもお店も
水曜日休みが多かった。
そんな時、火曜日深夜に放送されていたある番組が面白く、
私達はその出演者に興味をもった。
調べるとその俳優たちは”劇団員”という人たちだった。
演劇は面白く無いというよくある固定観念をもっていたけれど、
水曜日にやることが無くなった私達は、当日券のために数時間並び、
チケットを入手した。時間はたっぷりあったから。
衝撃的だった。全身に電流が流れた。脳が膨らんだ。
演劇というものは、想像を超えた世界を作り出していた。
それからその劇団の芝居を4回観に行き、宅建試験前日に有休を取って
当日券に並び、観劇をした。お陰で試験は合格した。
500人規模の劇場を、その劇団員たちは何万倍もの広さとして捉えていた。
それから水曜日の観劇は続いた。
あの頃はまだ、ネットで情報がぽんっと出てくる時代ではなくて、
演劇雑誌で情報を得るしかなかた。
足繁く通っているうちに、私の中に大きな変化が起きる。
私がいるべき場所はこちら側(客席)ではなく、あちら側(舞台)だと。
“劇団員募集”
その折込チラシを持ち帰り、その劇団の情報を限り有る手段で調べた。
劇団員になるなら、真面目に演劇に取り組んでいるところが良い。
その劇団の舞台映像は全く意味が分からなかったが、迫力があった。
4月1日。早稲田大学大隈講堂裏でオーディションを受けた。
その日の私は絶好調だった。ランニングで男子よりも早くゴールし、
薄暗い中で腕を組み、足を組む劇団員が見ている中、
数々のお題をこなしていった。
絵や写真や物を見て、イメージを体現するというお題をもらい、
溢れんばかりに言葉が出、体が動いた。
今だから言えるが、あまりにもどんどん出てくるので、
難しいふりをして考える時間を取るふりもした。
合格すると思った。そして、当日に合格の連絡が来た。
滑り出しが順調だった私は、順調だった会社員生活を辞めるという
大きな決断をした。
1年後、私は悟った。
私には演劇の才能が無いということを。
演技も上手くなく、面白い提案もできず、体現できず、言葉も出てこない。
個人発表の《ものまね》など、面白いの反対側にいるということを。

今は随分と長い間休団している。
何故私は演劇をしないのか?
何故しないのに劇団を辞めないのか?
その答えはまだ出ていない。

研修生は、私のこの過程の入口でもがいている。
順調な姿を見るより、ずっと魅力的だと私は思っている。

水寄真弓

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あたしのおうち

2018年度研修プログラム修了公演『あたしのおうち』
日程:2019年3月6日(水)~10日(日)
会場:大森山王FOREST
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2019年度研修プログラム「俳優になるための年間ワークショップ」
オーディション開催中
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