稽古場日誌

ダイバー研修生 研修生 2015/03/15

大久保美智子とわたし/松永明子

わたしたち研修生のボスである大久保美智子さんはピュアで厳しい。人間のこころと、芸術のために涙している鬼を同居させている。この人の口から溢れる言葉はこころにささる。

山の手事情社という劇団は、人間ってこんなことができてしまうんだ! それなら、こんなことは? と、ひとりの人間ができること、そのちっぽけな人間が集まった時、どんな奇跡が起きるのか、それを楽しみ、感動し続けてきた劇団なのだと思う。それは美智子さんとこの一年付き合ってきて、わかってきたこと。稽古場で思いもしないものが研修生から飛び出るといちばん喜んで楽しんでくれるのは美智子さんだ。

美智子さんは信じる。あきらめない。「おまえにはこんなことができるはずなんだ! もっとできるはずなんだ! 自分で知らないだけなんだ!」とわたしたちに語りかける。それは呪詛のようにも聞こえるし、希望のようにも聞こえる。実際その両方なのだと思う。

わたしは、自分のことを現代人の病理そのものを抱えていると自負しているのだけれど、つまりそれっていうのは、「生きつづけるためのビジョンが描けない」ということ。それだというのに、舞台の上にはいたいという厄介なタチ。

美智子さんにはたくさん言葉を掛けていただきました。それなのに、わたしときたら、たくさんのダメだしに「きー! もう何言ってるかわからない!!」とヘソを曲げてしまう。頭に血が上りやすいとは自覚していたけれど、それがすすむと天邪鬼になるということはすっかり忘れていたのであった。きっと美智子さんも「ナマイキなうえに、なんて面倒くさいんだ!」と思っていらしたことでしょう…

けれどここ数日のこと。
わたしは素直にしています。なぜなら誰も得しないから! わたしが頑なになっていると、「ダイバー」を見に来て下さるお客さまにも、稽古場にも、そして自分にも、なーんの得にもならない
ということがわかってきたからです。

ダイバーの上演時間90分のあいだに、なにがしかの出来事に出会いたくて、わたし達は集まります。それは、作り手もお客さまも同じはずで、その助けを美智子さんはしてくれているのです。なんでこんなことに気づいていなかったのでしょう。

美智子さんは、「べつにわたしの言うとおりにしなくて良い、ただ君たちが輝いてくれればいいんです」と言います。それはそうで、だけれど、美智子さんが掛けてくれた言葉や「人間にはこんなことができるんだ!」と感動する精神は、この先わたしの良心として胸にとどまりつづけると思う。

ところで、わたしは俳優・大久保美智子の「ものまね 三代目西荻屋」が大好きです。みなさんはもうご覧になりましたか? いつかこんな芸をやってのけたいなあ。https://youtu.be/rwvZVu-QT-Y

松永明子

稽古場日誌一覧へ