稽古場日誌

不安定な世の中である。
明日何が起こるかわからない昨今、私は危機的状況に陥らないように行動する。

稽古では
もし本番中に小道具が壊れたらどうする?
衣装が傷ついたらどうする?
この動きで怪我をする可能性はないか?

海外ツアーでは
危険なエリアには行かない。
水には気をつける。
本番中の貴重品の管理を徹底する。

もしこれが起きたらどうする? というハプニングを想定して行動する。

しかし、しかしだ。

現実はそう甘くはない。

先日自転車で稽古場へ向かう途中の出来事。
ゆるやかな下り坂を走っている時、後頭部に何やら違和感が。頭皮をつねられるようなマッサージされるような感覚。

振り返るとそこには黒い生き物が羽根を大きく広げて飛んでいた。あれカラスだ・・・と認識したのもつかの間、おなじみの鳴き声
「カーカー!」
と鳴きながら俺に向かって滑空してきた。

こりゃヤバイヤバイ俺何かしたっけいや何もしてないよなんでこんな目に遭わなきゃならないのもしかしたら俺の頭が巣に見えたのかしらっていうかカラスのクチバシめちゃ危ない手で振り払おうかいやバイキンうつるかもよとりあえず逃げよう!

と瞬時に判断して前を向いてジグザグに蛇行しながら走る走る。心拍数が上がるわ上がる。

もういないかな? と思い振り向くと
「クワー!」
まだカラスが追ってくる。完全にロックオンされている。

空から狙われたら本当どうしようもないのです。必死に逃げて約1分。ようやくカラスを振り払いました。

はたから見たらさぞや滑稽な絵だったでしょう。しかしハプニングはこちらの事情に関係なく訪れる。俺マニュアルにカラス対応方法は載っていなかった。

思い返すと
「ウワ、ウワ、キャー!」
と情けない叫びを上げていたような気がする。

川村岳

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『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』、両作品が「悲劇」であることにちなんで、「私と悲劇」をテーマにした稽古場日誌を連載中です。
それぞれの生活感あふれる「悲劇」をどうぞお楽しみください。

『タイタス・アンドロニカス』『女殺油地獄』公演情報
https://www.yamanote-j.org/performance/7207.html

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