稽古場日誌

タイタス・アンドロニカス/女殺油地獄 岩淵 吉能 2015/11/12

悲しいから泣くのか 泣くから悲しいのか

ある人からそう質問された。
答えるのに困惑していると、彼女が最近読んだ本について熱く話してくれた。

その本によると、「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだ」という考えを唱えている学説があるというのだ。人の感情が生まれるためには、まず、内臓や筋肉のわずかな収縮が必要で、それが脳に伝達されて始めて感情と認知されるということなのだそうだ。
また皮膚は人間の一番大きな内臓であるという別の学説もとりあげて、この本ではさらに論理を展開させている。

感情を生み出すのは皮膚感覚の変化であるというのだ。

面白い。皮膚感覚を身体の感覚とすれば、これはまさに山の手事情社の演技スタイル《四畳半》の考えそのものではないか。

山の手事情社のお芝居をご覧いただいたことのある方ならお分かりかと思うが、重心をあえてずらして動いたりするあのポーズは、登場人物の複雑な感情や葛藤、人間関係などを身体に表現しているのだが、実際は肌感覚というのがとても大切だと僕は考えている。ただ一人でクネクネ動いているわけではなく、相手の動きや息遣いを常に敏感に察知しないとシーンは成立しない。古典戯曲の壮大なドラマは成り立たないと考えている。

本日から始まる『女殺油地獄』。ある男が殺人を犯しお縄になる物語。
昨今巷で頻繁に起こっている殺人事件。ニュースだけの報道を流し見しただけで、憎いから殺す、愛しいから殺す、金が欲しいから殺す、などと安易に認識していないだろうか。

人間はもっともっと複雑なのだ。

油まみれの中お吉を殺して芽生えてくる与兵衛の情念は何なのか。
『女殺油地獄』をご覧いただいて感じとっていいただければと思う。

残りわずかですがまだお席の余裕のある回もございます。たくさんのご来場お待ちしております。

岩淵吉能

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『女殺油地獄』公演情報
https://www.yamanote-j.org/performance/7207.html

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