12/10/29

トロイラスとクレシダ

そして格闘は永遠に続く

2012年 山の手事情社公演「トロイラスとクレシダ」
無事に終了致しました。

劇場に入って、ゲネプロ(本番同様の通し稽古)を終えた後の話。
舞台では照明の当たりを調整している模様。舞台美術と照明を担当している関口裕二さんの怒号がとび、異様な緊迫感に包まれる。

「かみ(上手)、ちょいかみ!」
「いきすぎた」
「違うって!、『ちょっと』っていうのは、1ミリのことだぞ。」

1ミリのズレにも神経を使うシビアな世界。
その舞台で、役者達は常に格闘しなくてはならないのだ。
照明、衣装、音楽、あらゆる空間、登場人物同士そして古代の英雄と自分との格闘、今日来ている観客の視線、本番ごとに変わる1ミリのズレを繊細に、時には大胆に捉え、その格闘に全神経を注ぐ。
その行為を続けることが、観客の心を動かすことができるのではないか。

そう信じて、役者たちは格闘してきたと思う。
決して、楽なことではない。
終演後、舞台を見てくれた友人達の暖かい声援が、何より心の支えとなったのはいうまでもない。
そして、また明日から、劇団は格闘を続ける。

お陰様で全ステージ満員のお客様にご来場頂きました。誠にありがとうございます。
次回は来年3月「ひかりごけ」ご期待下さい。

岩淵吉能

12/10/25

トロイラスとクレシダ

この世にいない人

現在放映している大河ドラマは、視聴率がふるわないらしい。
色々な要因があると思うのだが、
「平清盛」って人に、そもそも興味がないのもその一因だろうか。
歴史的にみたら、わりと重要ポイントにいる人だと思うのだが。

今回の『トロイラスとクレシダ』。
元々は、ギリシア神話の登場人物たちが多く、日本人にはなじみが薄い。
大半の人にとっては、この物語の登場人物には興味がないだろう。

大河ドラマの現象は、ひるがえって
私たちのやろうとしていることに、かえってくる。
興味がない物語を、どうしたらおもしろがってもらえるか、魅力的な人物に見せられるか。

≪四畳半≫は、
この世にない魂を見せるしかけ、と口をすっぱくして演出の安田は言う。
現代の日本に生きている私たちには想像もつかないような人物を、浮かびあがらせることができると信じて取り組んでいる。
そういう、ある種幻想のような気持ちがなくちゃ、ギリシア神話の人物を演じるなんてできっこない。

でも、そんな人物たちと現代の私たちが通じる部分というのはあるわけで。
そういう部分を探り当てていきつつ、私たちに寄せすぎない距離をはかっていく。

話は変わるが、マイケル・ジャクソンの死後に発売された曲がある。
その曲のPVはステキなのだけれど、マイケル本人が出演してないから、どうにも物足りない。
仮に≪四畳半≫で、マイケルを演じてくれても、
物足りなさはきっと解消しないだろう。
だって、見たいのは、マイケル本人だもの。
そういう欲求を解消してくれるのが、
≪四畳半≫ということではない。

≪四畳半≫は、
「この世にいない人」を見せるんじゃなくて、
「この世にない魂」を見せるってところがミソ。
その本人を登場させようとすることではなくて、
その人の生き様とか、内面とか、考え方とか、
そういうものをひっくるめた「魂」を見せるってことだ。
そういう意味では、平清盛でも、マイケルでも、
「魂」を見せることはできるはず。

初日の幕があきました。
トロイラスも、クレシダも、
アキリーズも、ユリシーズも、
ヘレンも、ヘクターも、舞台にいます。
ぜひ、その目で「魂」を見てやってください。


小笠原くみこ

12/10/24

トロイラスとクレシダ

演劇セラピー

世間には秋が訪れているが、山の手事情社は現在戦争の真っ只中である。
演出、舞台美術、衣裳、もちろん俳優の演技、それぞれが大詰めを迎えている。

ところで、私事だが、2年ほど前ヒプノセラピー(前世療法)を受けにいった。
ひどく病んでいたので。
催眠状態に誘導され、自ら語ったところによると私の前世はドイツ人男性で、牢獄に入れられていたらしい。
今となると笑い話だが、当時は自分の知らない存在が自分の中にいると知らされ、なんだかほっとしたのをおぼえている。
自分すら知らない誰かが、自分の中にいる。
そこは信じていいところ。
つまり、私の中にはギリシア人もトロイ人もいる。
最近はもっぱら自分の中のギリシア人を探している。

衣裳作業に追われるギリシア人
忙しすぎてごはんを食べる時間のないギリシア人
演出家に怒鳴られるギリシア人
後輩にバカにされるギリシア人
にぶいギリシア人
眠いギリシア人
怒るギリシア人
・・・
あぁ、私は誰、ここはどこ。

自分とはなんと実態のないものか。
なのに、演じようとすると自分がむくむく出てきて邪魔をする。
厄介だが、そこが面白いところでもある。

『トロイラスとクレシダ』という作品の中には、本当にいろんな人物が登場する。
舞台の上で動き回る登場人物たちは、果たして自分の中にもいる人だろうか。
知らない自分を発見できるだろうか。
そんな風に見ていただけると幸いです。

安部みはる

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