「道成寺」をめぐる三つの伝説。ひとつは「黒髪縁起」。髪長姫(かみながひめ)の物語。髪の毛の生えてこない娘の生前の罪をつぐなおうと、海の底から出るあやしい光にむかってもぐる母。母の毛にからまった黄金の仏像の霊験で娘・宮子姫はすばらしい髪の持ち主となり、ついには聖武天皇の生母となる。二つめは「鐘巻縁起」。有名な安珍清姫の物語。熊野詣での若僧・安珍に清姫が恋慕し、約束を裏切られたことから大蛇となって、道成寺の釣鐘に隠れていた安珍を鐘もろとも焼き殺す。三つめは鐘の再興供養の場に白拍子があらわれ、鐘に対するうらみを述べて蛇体となるものの、僧の供養で成仏する「鐘供養」。
二つめ、三つめの話をもとに、能『道成寺』、歌舞伎『京鹿子娘道成寺』、浄瑠璃『日高川入相花王』をはじめ、日本舞踊、数多くの民俗芸能、郡虎彦や三島由紀夫の戯曲と多くの芸能が発生した。なぜ日本人はこれほど「道成寺」の話に惹かれるのか。日本人であることと「道成寺」にはどのような関係があるのか。私たちにとって「道成寺」とは何か。