[ 人間のふるさと ]
原作は人間讃歌に貫かれている。オイディプスは自国の惨状を見かね、王としての責任感からその原因をさぐるうちに、はからずも自分の過去をあばいてしまう。父を殺し、母と交わり、子までもうけたという、みずからも予想していなかった過去。しかし、オイディプスの身分的な破滅の一方で、人間というのは、こういうものではないか、という作者の視線も感じる。あくまでも人間を肯定していこうとする視線。人間は救われない、自分では想像もしないような大きな罪を背負っている。でも生きている。たとえこの世がひっくりかえっても、それはたかだか人間が理性で積み上げた世界にすぎない。その根底には、マグマのようにエネルギーがうねっている場所がある。文明に慣れた目には暴力とセックスが支配する世界としか映らないかもしれない。父殺しや母との交接もその世界に属する。けれども、そこからスタートすればいいじゃないか。ソフォクレスはそうつぶやいている。この世は窮屈で、人間は救いがないなんて考えなくてもいい、大丈夫、何がなくてもその場所はある。私たちが信じているこの世なんて、そもそもはかないものなんだよ、と。(安田雅弘)


