11/07/20

傾城反魂香/ルーマニア

心新たに

やっとルーマニアに足を踏みいれた。

一昨年、昨年と劇団員から話を聞いて、“ルーマニア時間”に対応する心づもりはできていたが、意外なことに気づかされた。

過密スケジュールで動いている俳優やスタッフのために、お茶場(休憩所)を早く設置しようとロビーのテーブルを動かしていると、オバさんと引っ張りあいに。使ってはいけないテーブルだったかと思いきや、もっと大きいテーブルを用意してくれている様子。しかもテーブルクロスまでかけて。

公演時に配る当日パンフレットの印刷を頼む。確認したいので昼過ぎに見せてね、と言ったのに、なかなかあがってこない。本番に間に合うか気が気でない。そうこうしていると開場30分前、カラー印刷したものが届けられた。

なんで急いでいることを分かってくれないの?
なんで早くみせてくれないの?

これかっ! みんなが言っていた“ルーマニア時間”。
でも、ここは日本じゃないから、ひとまず我慢。


少し落ち着いて考えてみた。
“ルーマニア時間”があると思うのは日本人だけなんじゃないか。

彼らは最善のものをつくるためには、ギリギリまで時間をかけるという信念のもと、舞台上以外でも最高のクオリティを求めてやってくれたのではないだろうか。
そう思うと、その後のことは色々受け入れられるようになった。
と同時に、私の今までやってきたことが、どこかスピードに押されていたのではないかと反省。

日本人社会では絶対に得られなかった「ゆとり」の良さを実感。
「ゆとり」と言っては失礼だろうか。
舞台人としての真髄を目の当たりにした。

入団10年を迎えるに当たって、大事なことに気づかせてくれたルーマニア。
気持ちを新たに12月公演の準備をはじめております。
ぜひ皆様、足をお運びください。
お待ちしています。

福冨はつみ

11/07/14

傾城反魂香/ルーマニア

ブカレスト本番前日

稽古もそこそこに、安田さんと、あるシーンの出演者数名でとある高校に行くことになる。
話によると、明日の宣伝も兼ねて、ブカレストの、日本愛好会のシンポジウムでデモンストレーションをするということらしい。

現地につくといきなり仰天。
浴衣姿のルーマニア美女がお出迎え。しかも団体さん。
日本人体型こその浴衣、「丈あってねーだろが」とつっこみたいところだが、ちょいミニスカ感もいやはや。
隣の川村さんと声をそろえ世界共通言語となっているらしい「KAWAII!」を連発。聞こえるように。
通じてるかどうかはさておき。

入り口入って、すぐ正面が講堂、
その入口には日本の一風景として、漆塗りのお盆に湯飲み茶碗ととっくりが。
「そこは(とっくりじゃなく)急須でしょ」と早速突っ込む安田さん。
「まあ、(日本の)雰囲気雰囲気、ねー」とうまくいなす通訳志賀さん。頼りになります。

ブカレストの大学で日本語教師をしていらっしゃったという方に案内され2階へ。
いろいろな日本文化の教室を開いているみたいで、その作品展示がされてる。文化祭みたい。
やはり漫画、意外と上手い書道、俳句、また水墨画みたいなのもある。いろいろ興味持ってくれてるんだなと関心。茶道、おどろきの囲碁、盆栽まで。
「これはただの腐った木の鉢植えじゃねーの? 葉がばっさばさだしよ」と突っ込みたくなるがそこは我慢。
生花教室では、生徒さん数名で今まさに授業を始めている。
生徒さんルーマニア人。先生もルーマニア人。熱心に、どでかい葉っぱをザクザクと剣山へ。
スケールでか、ど派手生花。ものすごい違和感、でもなんか嬉しかったりして。生花なんも知らんけど。

衣装に着替え、いよいよデモンストレーション会場の講堂へ。
前のシンポジウムがまだ終っていない。プロジェクターにスナップ写真を写し、何やら説明をしている。
皇居の回りをランニングする日本人、つぼみの桜、浅草雷門、通勤途中らしいサラリーマンとか、日本の東京の何気ない風景。
よく目を凝らすと、全て写真には日付が…。

「2011.03.12」

内容全くわからなかったけど、僕が思うに多分、大震災のあった翌日も日本は変りなくて、ニュース(どんな話になってるかはよく知らないけど)で報道してるような状況ばかりじゃなく、今でも僕達ルーマニア人の思っている良き日本であったよ、だから安心して、的なことをレポートしてるんだろなと思って、ちょいと感動。

いよいよデモンストレーション。壇上に並ぶ。
安田さんの挨拶、素晴らしい歓待に刺激を受けたのでしょうか、やけに長い。彫刻家ロダンの弟の話、日本人の美学の話。とてもいい話なのですが、ルーマニア人には、ぽかんだろなと、隣の山本さんと目を合わせる。無言でも分かる不思議、激しく同意。
で、ちょっとだけ四畳半、園田が出ハケでコケるニアミス。初ルーマニア公演だもんな、気合入りすぎたかの。
温かい拍手。とても心地良い。

お土産の花とお菓子を持って、オデオン劇場へ戻る。

こんなにも離れているのに、(もしかしたら僕らよりも)日本にとても親近感を持ってくれている人達が沢山いるんだなと改めて実感した、3度目のルーマニア。
これからもよろしくお願いします。

岩淵吉能

11/07/13

傾城反魂香/ルーマニア

「ファウスト」は楽しかった

ラドゥ・スタンカの「ファウスト」は非常に面白いらしい。あまつさえ国宝に指定されたとか言う噂も聞きました。芝居自体が国宝になるなんていったいなんなのだろうと期待を胸に、山の手事情社の本番がおわった翌日、観にいきました。

舞台のセットといい演出といい、お客さんを飽きさせない仕掛けがもりだくさんで常に目を惹きます。特に自分が大好きになったのはファウスト役の方です。もちろん言葉はわかりませんでしたが、どんな状態にあるのか伝わるし、なんといってもメフィストと会話しながら狂気が変質していく姿に色気を感じました。これほど面白い「ファウスト」は観たことがありません。

当日券だったため、自分に用意された席は役者の通り路。「大勢の役者が走って通り抜けるので気をつけて。はみださないように。」というようなことを言われ、しばらくすると自分の横に人が来た気配を感じました。
役者が待機してるのか? だったら見ないようにしよう。いや、しかし、こんな前のほうまで来て待機というのもおかしい…
と思って横をみると、金髪の女性。
確か彼女はラドゥ・スタンカの芝居には必ず受付にいたスタッフの人。
本番中のさなかなぜこんなところに。まさか役者として出演するわけじゃあるまいに。
金髪の彼女は居所をそのままに、わずかばかり体をゆすって客席を見渡しています。そのうえ、照明の目の前に立っています。肩から上が光にあたってまるで後光がさしたかのように光っています。

自分は舞台のどこかに影はないかつい探してしまいます。見たところ彼女の頭の影は舞台上にはないように思われます。
自分を奮いたたせ芝居に集中しようとしているうちに、彼女の気配が消えました。その数秒後、顔を白く塗りたくった大勢の小悪魔役が自分の横を全速力で駆け抜けていきました。

この「ファウスト」にはお客さんが席を移動して全員立ち見のシーンがあります。ハデだったり、グロかったり、暗黒サーカスみたいで見応えはありました。そのサーカスが終わるとまた元の席に戻ります。
自分の横に、例の、金髪の女性スタッフが出現しました。
油断していました。
自分は彼女をチラっと見てから通路の奥を見ました。今回は控えている役者はおりません。いったいどのくらいここに立っているつもりなのだろうか。照明の目の前に立っていて頭は熱くないのだろうか。
わさわさとした気配を感じ彼女をみると、客席の前のほうの真ん中くらいをめざして、手招きをしたり、口に手をあてて声をださずに叫ぶ動作をおこなっています。どうしても呼びよせたい人物がいるようです。
自分の真横でわさわさ、わさわさ。激しく手招きをした掌から微風を感じます。口に手をあて声をださずにいるのに心の声がきこえてくるようです。

…これを気にしないでいられようか。悶々としながら舞台を観、たまに彼女を見、7〜8分もしたころでしょうか、彼女は途中であきらめて去っていきました。

次に観る機会があったならば、必ず前売券を入手して端の席には座らないようにしようと思いました。

石原石子

Top «« 1 2 3 4 5 6 .. »» Last