11/05/27
11年たって
『傾城反魂香』の稽古は佳境を迎えています。
思えば初演は11年前、西荻窪の劇場というより天井の低い地下のスタジオでの公演でした。
楽屋らしい部屋などなく裏口へつづく階段に腰掛けてメイクしていたのを思い出します。
初演の『平成・近松・反魂香』は“実験公演“ということになっていました。
それほど実験的なことはやってなかったと思うのですが、
普通の劇場とは違う狭い空間で上演することや、和物の古典戯曲を全編通しで上演するということなどは今までにない試みでした。
この手強い戯曲をどうするか、いろいろな試行錯誤を続けながら作品を作っていきました。
当時は山の手事情社が《四畳半》をスタイルとして取り入れてから間もない時期で、現在の劇団中核メンバーはほとんど全員まだ入団3〜4年目くらいでした。
12月の後半に行われた公演で、お客さんも毎回少なく、クリスマスの日など出演者の数の方が多い時もありました。
それでもまだみんなの中には、何か新しいことに飛び込もうとしていることへの興奮みたいなものはあったような気がします。
その後10年以上にわたり《四畳半》での公演を重ねてきて、このスタイルもいくらか深められてきたように思いますが、
一方でかつてのような興奮を失ってはいまいかと問いかけながら、新たな《傾城反魂香》の稽古を重ねています。
近松門左衛門は自分の死後300年近くたっても現代演劇として『傾城反魂香』が上演されるとは思ってなかったでしょう。
海を渡って地球の反対側の外国人に見てもらうことなど想像出来なかったでしょう。
これもひとつの奇跡かもしれません。
近松が書き上げたときの興奮をそのまま伝えられるよう、がんばりたいと思います。
山本芳郎