11/06/23

傾城反魂香/ルーマニア

海外公演を終えて

ルーマニアにいる間、日本に帰りたかったように思う。
でもいざ帰って来てみると、日本がものすごくよそよそしくなっていた。
電車から見える街並みはちぐはぐで、街中はやけに人と建物であふれて汗臭い。

豊かに見えるのに、なんだか空っぽだなぁ。
私は本当にこんな国に帰りたかったんだろうか。
そう感じてちょっと驚いた。

間違いなく日本は豊かだ。
たとえどんな田舎の劇場・ホールであろうとも、置いてあるピアノはピカピカに輝いて、あわよくば調律されているだろう。
普段使わないトイレの電気がつかないことも(電球ごとないとか)、いまどき空調の無い練習室の、しかもその部屋の窓が開かない、なんてことはないはずだ。
そういう点では恵まれている。
ただ、そこで行われること、生まれることは豊かなのか。
そうでないことの方が多いんじゃないか。
この国の俳優なのに、そう思ってしまうことが情けなく、悔しい。

シビウのフェスティバルでは、残念ながら演劇は2作品しか見ることが出来なかった。
1つは、まぁ、どこかにおいておくとして(苦笑)もう1つはラドゥ・スタンカの十八番、「ファウスト」。
専用の劇場(埃だらけの工場跡みたいな所)もさることながら、幾度も上演されているはずなのにこの人気、熱気。すごい。
当日券を求める人、人、人。
一番印象に残ったのは、看板女優、メフィストフェレス役のオフィリア・ポピー。
彼女が喋った瞬間、第一声で鳥肌が立った。
言葉がわかんないのに鳥肌が立つって何だ。
この空間、すげぇパワーだ。
途中で客席を移動したりするのだが、観客は最後まで舞台の上に集中していた。

日本と比べると決して物質的に豊かでないこの国には、見えないものが豊かに、生きている。
観客が、つまり普通の人が、舞台を見る事を楽しみとしている。
演劇は日本より、すぐ側で息をしている気がする。

空っぽを感じた日本に、豊かさを与えるには何をすればいいんだろう。
演劇で何か出来るだろうか。
いや、何かしなくてはいけないんじゃないか。

自身の足りない演技を本当に情けなく思い、演劇で出来ることを改めて考える海外公演だった。

園田 恵

11/06/23

傾城反魂香/ルーマニア

電車の中の夢

ルーマニアツアー三年目。
いまだプログラムの見方が良くわからない。

シビウ4日目、なかなか面白い芝居に当たらない自分。
芝居を観たい。面白い芝居が観たい。
14:00からやっているこれは芝居だろうか。
「電車に乗って回る芝居で面白いらしいですよ。」と、通訳の志賀さん。
行くしかない。チケットを購入しに行こう。

お、この店のはずだ。
中に入ると美人のお姉さんと坊主の男性が楽しげに会話をしている。口説いているようにしか見えないが、どうやらお姉さんからチケットを買っているらしい。しかも、大量に。
待つこと5分。口説いているようにしか見えないがそうではないのだと我慢し、待つ。待つ。
さらに待つこと3分。流石に悪いと思ったのか、美人のお姉さん、男性を横目に私に声を掛けてくれた。

「チケッツ??」
『イエス、アイウォンツ、ディスチケット』
「ノン」
『ディスチケット』
「ノン」

もういい。頼まない。
チケットが無いまま現場へ急行。そこにはやはり芝居観たい症候群にかかった美智子さんと石原が。二人ともチケットは勿論ない。やはりここはごり押しだ。と、一同決心を固める。

回りにはチケットを持っている幸福な人々が無遠慮に笑顔を浮かべている。と、そこにさっきの坊主男が。10人程のルーマニア人を従えチケットを配布しているではないか。
お前のせいか、このやろうと思いつつ、美智子さんと一緒に輪の中に混じってみる。私にもそのチケットおくれ。

………。

ケチ坊主め。もういい、頼まん。
と、そこにあの美人なお姉さんが。すかさずコンタクトを試みるが、私達など見えないかのように仕事に取り掛かり話す暇を与えない。
美人め。私達は安田の手下なんだぞ。恐いんだぞ。アイ・アム・ジャパニーズ!!

最初は何とか入れるだろうと思っていた私たちだったが、本当に入れないかも知れないという現実に口数すら減ってくる。
するとそこに舞台となる列車が!!
女優さんがなにやら名前を呼び始める。するとお客が一人、また一人と列車の中へ。
私の名前を呼んでくれ。オグリエリコと言ってくれ。

嘘、うそだよね。入れてくれるよね。と、藁をも掴む思いで美人のお姉さんの元へ。
いつまでたってもこっちを見てさえくれない美人のお姉さん。ホントに無理そう、ホントに乗れなそう、ホントにシカトされそう。でも、観たい。観たいのよ。この芝居が。どうしても。観たくて体がゆがみそうさ。すると

「ワン。ジャストワン。」
『ひ、一人だけ!?』
先輩の美智子さんに『どうぞ』と言わなければ・・・

『じゃんけんしよう!!』
聞こえて来たのは美智子さんの声。
『は、はい!!』
どうしても、どうぞと言えなかった!!

『ジャン、ケン、ポン!!』
……私、勝った。

『すみません!!ホントすみません!!』
と、言いつつイソイソと列車の中へ。
走り出す列車。手を振る石原、そして、美智子さん。
ホントにごめんなさい。でも泣かない、私女の子だもん。

すると、なにやら陽気なバイオリンの音楽が。
すぐ隣には手を叩いて踊る役者さん達。
あぁ、ここはどこだろう、何だか楽しいなぁ。ルーマニアは楽しいなぁ。

と、辛い現実を忘れ、その後小一時間夢の世界へトリップ致しました。そして主役の俳優に惚れました。
ルーマニアは素敵な国でした。

小栗永里子

11/06/21

傾城反魂香/ルーマニア

百聞は一見に如かず

実は今回が初海外の私。
調べても調べてもわからない事が沢山。

・飛行機に乗る時は高校卒業の証明書がいる(ここまで学歴社会の波が…)。
・初めて飛行機に乗る時は医師の診断書が必要。なぜなら気圧で臓器が破裂するから(そんなに恐ろしい乗り物とは…)。
・飛行機では国境を越えたら靴を脱がなくてはいけない法律がある(宗教上の関係だろうか…)。

…と、私に大嘘を教えてくる先輩達。
戦うべき不安が多いようだ。

法に触れず、尚且つ健康体で、無事にルーマニアに到着した一行。
臆病者でもここから不安とは言ってられない日々が始まる。

拙すぎる英語を頼りに、私は買い出し隊。
少しだけ調べてきたルーマニア語を頑として使わなかったのは、100%染められてなるものかという決意と解釈していただけると多少プライドは傷つかない。
英語で伝わらなかったらとにかく身振り手振りで。
やらなくてはという目的がそこに存在する以上(繰り返しになるが)不安とは言ってられない。

ビデオ撮影係の私。
シビウでの本番は2階席で観た。
最初はお客様に邪魔にならないように三脚を立て撮影するつもりだったが、あっという間に2階席は満席。
上から一階席を覗くとこちらも満席。
遂には立ち見のお客様で溢れる事態に。
私は三脚を急いで畳み、ビデオを手に持って撮影する事に。

本番が始まってからダイレクトにお客様の反応を感じるところに自分が居る事に気づく。
呼吸の音まで聞こえそうなお客様との距離感の中(本当にぎゅうぎゅう詰めだった)、本番中のひとつひとつの反応に少し汗ばむ。

ついてきてるだろうか。
今更ながら言語の壁を意識する。
ぐるぐる頭を回る。

しかし、それを拭い去るように終演後盛大な拍手と拍手と拍手。
言語の違いは些細な問題であり大きく見れば一つの方言に過ぎないと実感。
これは後日、シビウで観た他の団体の公演でも感じた事だが、芝居の先に目的とそれに伴った熱さえあれば、ちゃんと伝わるという事。
臆病者百聞は一見に如かずを学ぶ。

ひとまずの安堵。
それと共に12月の日本公演の事を考え、立ち向かうべき新しい壁について認識する。

終演後の様子を撮影するべく一階のロビーに降りる途中、お客様に「よかったよ!」とにっこりされた。
私の「ありがとう」は緊張して強張っていたからちゃんと伝わっただろうか。
不安だ。

村田明香



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