14/07/13

にごりえ

『劇団若手』

劇団山の手事情社の中の、劇団若手。
今回は、その劇団若手の公演である。

誤解を招きそうであるが、もちろん、そんな劇団を結成はしていない。あくまで我々の感覚の話。
とはいえ、今回出演をしない諸先輩方の力も多大にお借りしている事は、ここに付け加えさせていただきたい。

若手公演のプロジェクトは、3年程前から動き始めていた。私の入団前になる。

30年もの歴史を持つ山の手事情社において、若手の力はまだまだ不十分。しかし、演劇に対する情熱を常に持て余している。
因みに、半分以上がアラサー。家庭無し、非正規社員、ノーメイク、ノーロマンス…。何十苦を抱えて演劇を続けている事か。それでも、演劇なのだ。
情熱大陸も顔負けの数々のドラマを経て、ようやく今『にごりえ』に到達。
並々ならぬ思いを重ね、遂にその日を迎えようとしている。

ぼんやりと出てきた『にごりえ』の輪郭を、明確にしていく事に費やす残り時間。
情熱ややる気だけでは通用しない芝居作り。

スチームサウナの様な稽古場。
初夏に浮き立つ世の中をよそに、昼から深夜まで缶詰の劇団若手。
水溜りが出来そうな程しずる感たっぷりの床の汗。お願いだから、タオルを使ってくれ。
シフト制なのかと疑いたくなる位、順番に鼻血を出す若い男優陣。
日増しに堂々と汗だくのTシャツを生着替えする、若くもない女優陣。
日毎積み重なる演出の怒号に、迷宮入りして少し解決してを繰り返す日々。
とにかく演劇がしたい!
生きている実感に到達したい!
この作品をお伝えしたい!
冷房をつけさせて!

不十分な私達が持つべきは、私達の人生を投げ打つ覚悟と、作品が持つ一見静かなに見える大きな熱を繋げた、複雑な熱意。
暑い熱い情念で丹精込めた、劇団若手の悲願の舞台を、間も無く日暮里にお運び致します。

どうぞお楽しみに。


辻川ちかよ

14/07/12

にごりえ

『面倒くさい女、それが中川佐織だ』(俳優紹介)

ミーティング、ようやく終盤にさしかかると必ず、「あのう〜?」 と割って入ってくる。

ミーティングではそんな彼女に振り回されることもしばしば。

終わりの空気を気にすることなく、自分の意見をきちんと言う、それが中川佐織だ。


先輩が真面目にダメ出ししている時、彼女はまん丸の瞳をうるうるさせながら一点を見つめている。こちらは少し言い過ぎたかと気にしていると「最近、太りました?」 と一言してやったりニヤリと笑みを浮かべる。

打たれても反撃は忘れない、それが中川佐織だ。

先輩が褒めるなんてことは滅多にしない。
アイデアの宝庫、他人とは違う視点、彼女にはずば抜けたセンスがある。そのことをちょっとでもちらつかせると、「気持ち悪いからやめて下さい」 と人をバイ菌扱いする。

「ウザイ」 が口グセ、それが中川佐織だ。

いよいよ本番、稽古も佳境、先の見えない冒険とでもいうのか、今日も演出家の怒号が嵐のようにに降りそそぐ。

それでも彼女の必死になってあがく姿はそこにある。

「ペッ、安田め、今に見てろよ」 とつばを吐き、物影から演出家に毒矢を射ようとする姿が目に浮かぶ。

そう、それでいいのだ。
周りに流されることなく、常に自分の世界を社会に発信すること、

表現者は面倒くさくなくてはいけないのだ。


面倒くさい『女優』 、それが中川佐織だ。

岩淵吉能

14/07/11

にごりえ

『欲望という名の稽古場』

先日、稽古からの帰り道に立ち寄ったコンビニで猫を散歩させているおばさんを見た。
それに、池上に出没すると話題の、鼻の下に「20%off」 というシールを貼って自転車で疾走しているおじさん。

なぜそれをしようと思ったのかぜひ聞きたい、そしてぜひ見てみたい。

世の中は人間の欲求で回っているな、と感じる今日この頃。
しかも、変わった欲求を叶えようとする姿は人目を引く。

人間の三大欲求といわれるのは、
「食欲」
「睡眠欲」
「性欲」

ところが、本当は三大欲求ではなく、四大欲求なんだそうだ。

上記の三つに加え「自分の重要感を満たす」という四つ目がある。
欲求の度合いとしては性欲よりも上だそうだ。
孤独な現代人たちは、この欲求が満たされないから「死にたい」 と思ってしまうのだ。

『にごりえ』 の公演を成功させるべく必死に稽古する日々の中で、
いろんな欲求が渦巻く私たち。
その多くは叶わないまま降り積もっていく。
演劇をやっている私たちは、果たして世の中にとって必要な存在なのだろうか。
変わった欲求として人目を引けるだろうか。
私たちは、どこかで、誰かにとって、重要な存在になりたいのだ。


『にごりえ』 の舞台は遊女を抱える「銘酒屋」 であり、客の性欲を満たすところ。
遊女たちは客の欲求を満たしているつもりが、
逆に必要とされたいという欲求を満たそうとしているようにも思えるから面白い。


「性欲」 も、「自分の重要感を満たす欲」 も一人では満たせない。
演劇も、見に来てくださるお客様あってのものだ。
どうか、お客様にとって重要な存在になれますように。

劇場入りまであと少し、全力を出し切って本番を迎えたいと思う。

安部みはる

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