13/03/25

ひかりごけ

「ひかりごけ」稽古場日誌/「モノサシ」

劇中にこんなセリフがある。
「食べちまう葬式[とむれえ]ってえのは、あっかなあ。」
八蔵が、死んだ五助を食べるか食べないかでもめているときに言うセリフ。

このセリフを質問と捉えるなら、答えは「ある」である。

世の中には、死んだ者を食べる文化を持つ民族がいる。
焼いたり、土に埋めたりせず、生きている人間の体に取り込む(食べる)ことで、死者が寂しくないようにするんだそうだ。
私たちが知っている葬式とは、全く違う。

話は変わるが、外国へ行くと、あいさつの際ホッペを合わせたり、抱き合ったりする。
だいぶ慣れたが、やはりまだまだ抵抗を感じる。
初めて会った人と、ホッペをくっつけるなんて、そりゃないだろ。
長年一緒にいる劇団員や家族間でも、そんなのしないぜ。

私の捉えている常識・非常識は、国や時代、法律、倫理観、道徳観、正義感が変われば、常識は非常識で、非常識は常識になる。
モノサシが変わるってことだ。
モノサシが変わることは分かっているけれど、肌感覚で捉えているモノは、なかなかそんなに割り切れない。
普段は頭でしか捉えていなかったことを、感覚で教えてくれるのが、「ひかりごけ」なんだなと思う。
そして、それを演劇にすることで、もっと敏感に伝えようとしているんだなと。

私たちは、時々、自分たちの常識・非常識と捉えていたものに、溺れそうになる。
自分たちのいる位置を、時々客観的に見ることが必要なんだろう。

そんな演劇、見に来てくださいませ。

小笠原くみこ

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山の手事情社公演「ひかりごけ」
詳細は、こちらからどうぞ。
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13/03/24

ひかりごけ

「ひかりごけ」稽古場日誌/「フィクションとノンフィクション」

「ひかりごけ」にまつわる資料の一つに、会田一道さんの書いた、『「ひかりごけ」事件 難破船長食人犯罪の真相』という本があります。
実際の事件の船長本人に会田さんが15年かけてインタビューし、船長の話を事件の時系列にしてまとめた本です。
私も読んだのですが、一人で夜道を歩くのが怖くなると言うか、吐き気が来ると言うか、なんともいえなくなって手で口を押さえたくなる、船長の言葉が書かれています。

実際の事件から結構な時間を経て語っているので、どこまで信じていいのかわからんなぁと思ったり、会田さんの脚色は何かしらあるんじゃないのか? とか、疑ってしまいます。
それは単純に私個人の中で「人食いした人間に対して、そんな簡単に理解してあげられない」という気持があるからです。
同時に、読みながら涙ぐんでしまう自分もいるのですが、「いや、でも私はこの人の気持はそこまでわかってないぞ」と、駄目駄目…と自分の気持を止めては読んで、ぐっとこらえて読んで。
人肉を食べて腹は満たされたものの、小屋の隙間から入ってきた風で火が消えてしまい、猛烈な寒さが再度襲ってきたときのくだりでは、「肉を与えといて、火を奪うのかって何かに叫んだんだよ」と語っているやるせない船長の言葉があり、もう、私は頭抱えて「やーめーてーくれー」となって、本の中にある現実から逃避するためか、笑い出してしていました。
救われた気持にまったくならない、大変興味深い本です。

今回の演目である武田泰淳の「ひかりごけ」。
この残酷な事件に文学性を持たせて作られた戯曲(フィクション)です。
書いた本人が公演不可能だと前書きに書くくらい、ある種の完結を見せるほどに、戯曲としてとてもおもしろいです。
演劇は、フィクションであるからこそ、実際の話とは別の次元のものが見られるのでは? と、私は会田さんの本と「ひかりごけ」を読み比べて思います。

武田泰淳が実際の話をフィクションにした小説「ひかりごけ」に、山の手事情社が、さらにまた一つ違う次元の、演劇というフィクションで「ひかりごけ」をお見せできるよう、劇場では男たちがブラッシュアップし続けております。

文化学院にて、当日、お待ちしております!

中川佐織

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山の手事情社公演「ひかりごけ」
詳細は、こちらからどうぞ。
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13/03/21

ひかりごけ

「ひかりごけ」稽古場日誌/「未見」

劇場に入りました。
しかしまだ稽古を見ていません。
もちろん作業で忙しいというのもあります。
ここのところずっと7mとか6.5mとか3mの布を切ってはつなげてます。
しかし本当は、なるべくお客様と近い目線で見たいなあと思ったからです。

いつも「死ぬ気で」とかほざいてる私たちって外から見るとどうなのよ? と。
暑苦しいよ! と。

四畳半ってどうなのよ?
本当におもしろいの? おもしろいとしたら、どこなのよ? と。

…で、ありながらほぼ毎日稽古報告の長文メールが送られてきて、
(演出助手の小笠原やその子分・中川が書いています)
なんとなく稽古場の空気が読めちゃいます。ち。

出演者たちよ 悩め苦しめ痩せてみろ!

いやあ、出演してないってほんとにいいですね♪

出演してないから言ってしまいますが、私は食べて欲しい派です。

死んだら身内のものたちで私の皮をはぎ、葬式でみなさまにふるまいたいくらいです。

でもきっとみなさま不愉快になるでしょうから、せめてハゲタカとか、ハイエナなんかに食べて欲しいのですが…
そういった葬式はないものでしょうか。

さて「ひかりごけ」です。
以前、先輩の倉品さんが、元お嬢さん(シニア女優)を3人もたぶらかし、「ひかりごけ」をつくりました。
それは、今思えば奇蹟的な作品でした。
倉品先輩も書いていますが、出演もしていた倉品さんが、「存在感」というところで負けそうになっていたのも、私にとっては新鮮極まりない光景でした。

演技と技術の狭間を目の当たりにして、その不思議さに感じ入ったものでした。

作品は「ひかりごけ」のもつ不思議さにも迫っていたと思います。

しばしば私は「ひかりごけ」の上演を説教臭く感じてしまいますが、そこをシニア女優たちは回避できた。
それは図らずも、また失礼ながらも、倉品さんより死に近い女優さんたちの「切実さ」であったように思います。
それは狙って出せるものではない、ご本人に憑いたものです。
そこを獲得するのが、一番高度だと、最近私は考えています。

ずっと若い今回のキャストが、どうこの戯曲に迫ってくれるのか。
深い期待とともに、もっとも厳しい観客ですよ、今回のわたくし。
仕掛けを作りながら、まさか演技が仕掛けに負けるってことはないだろうね? と、意地悪な視線を送っていますよ。

ぜひ、いい意味で裏切ってほしいです。

大久保美智子

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山の手事情社公演「ひかりごけ」
詳細は、こちらからどうぞ。
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