13/03/07

ひかりごけ

「ひかりごけ」稽古場日誌/「私の好きなところ」

私の好きなところを2つあげます。

1つ目は舞台美術。
場所は、文化学院の講堂。
この場所は不思議と異空間に連れて行ってくれます。
先月は文化学院専門課程・演劇専攻の卒業公演『戦場のピクニック』が行われました。
アラバールの不条理な世界が立ち上がり面白い舞台となりました。
今回の作品は舞台美術を観るだけでもワクワクしますよ。
詳しくは本番で!

2つ目は「2幕」です。
1幕目は極寒の雪の中、2幕は一転して裁判所のシーンです。
検事に追い詰められて船長がなかなか答えず、やっと口を開いたと思ったら
「私は我慢しています。」と答え始めるシーン。
じわじわと「ひかりごけ」の世界に連れられていくポイントになります。
死んだ仲間の肉を食べ、生き延びた船長は裁かれます。
自分のとった行動に苦しみどうしようもない大きな矛盾を抱える事になります。
悲しみ、怒り、後悔、気が触れそうなどうしようもない状態、辛い状態に陥っているのだろうと想像しますが、全てを受けとめじっと生きていく事しか出来ない。
それは船長が一番わかっていると同時に、結局誰にも裁けない、
「いい」「悪い」の話しではないのだろうという事が見え始めてくるシーンです。
ここが見所。
つい、「ひかりごけ」ってどんな物語?
と聞かれると、「食人の話だよ」咄嗟に答えてしまう。
が、この物語が伝えたいものはそう言い切れるような簡単な事ではない気がいたします。

生活の中で感じにくくなっている事、蓋を閉めてしまっている感情が沢山あります。
一見船長の経験した事とはかけ離れた所にいる自分達。
辛い出来事があれば、目をつぶり、どこか無関係だと思い込みたくなる。
しかし、今回、人肉を食べてしまった男に舞台上で出会う事で、改めて自分自身に出会う事ができるのではないかと思っています。
船長の姿が、もしくは他の役の姿が、ご自身と重なるのではないか。
結果、ご自身の豊かさに触れる事に繋がるのではないかと思っています。
是非足をお運びください。


植田 麻里絵

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山の手事情社公演「ひかりごけ」
詳細は、こちらからどうぞ。
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13/03/06

ひかりごけ

「ひかりごけ」稽古場日誌/稽古場の濃度

今回は四人芝居です。
当然のことながら
たいがいの劇団員は裏方にまわります。
私は舞台監督の補佐のような位置にいる石原です。

そこで私は稽古も見にいったりしますが
男四人がこの寒いなか
室温をあげての稽古。

台詞のしぼりだし方
体の動かし方
それらをぎゅぎゅーっと
緊迫感のある空間に仕上げていきます。
冒頭の川村さんの第一声がでるまでの緊張感はわくわくします。
飢えと寒さに苦しむ四人を表現するために
毛穴という毛穴からなにかわけのわからないものが
にゅ?うっとでてくるみたいに発汗していき
こちらまで息苦しくなって
稽古場がもう
なんていうか
くさい。

熱気と匂いをいれかえるため
換気をちょこちょこするのですが、寒い。

みんな風邪をひかないようにと思いはするものの
空気は薄いし埃もでるし
環境に悪いので換気はしなくてはなりません。

そしてあらためて
『ひかりごけ』の登場人物たちは
風邪なんてレベルの話じゃないにしても
そういった日常での体調の悪さのようなものの現象
―たとえば咳とかくしゃみとか―
そういったものはなかったのだろうかと
また換気をするたびに花粉がはいって
重度の花粉症である斉木さんは大丈夫なのだろうかと
余計なことばかり考えていました。


石原石子


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山の手事情社公演「ひかりごけ」
詳細は、こちらからどうぞ。
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13/03/05

ひかりごけ

「ひかりごけ」稽古場日誌/「私にとっての孤独と我慢」

私がまだ20代前半で、東京に来たばかり、劇団に入りたての頃。
稽古や作業が連日続き、あり得ない寝不足状態にプラスして風邪気味の最悪の体調、朝9時集合のため、サラリーマンやOLで満員の電車に乗る。
ギュウギュウに押し込められた中で、やたらと重い荷物を持ち、満員電車に慣れていないせいで、手すりや吊革にもつかめない。
誰も席をゆずってくれない中思った。
誰が見ても分かる、その人の体調を示す物差しようなものはないのか。
その時想像したのは、体調の悪さや疲れ具合が、リトマス試験紙のようなもので判断できたら。
その想像をもう少し詳しく言うと、後頭部の横アタリに、割と大きめなリトマス試験紙が宙に浮いて存在していて、具合が悪いと紫色が濃くなり、寝不足や疲れ具合は茶色に変化する。
そんな分かりやすいものがあったら、席に座る優先順位が変わるのに、と。

残念ながら、ドラエもんが出しそうな、そんなリトマス試験紙のようなものは存在しない。
下車する駅に早く着いてくれ、じゃなきゃ、私の体調を誰かが気づいてくれないかなという希望。
こんなに周りに人がいるのに、まるで外国か、宇宙にでもいるような孤独。
他人に押されて体が感じる具体的な圧迫感と、説明しがたい空気のような圧迫感。
実際に今いる空間は電車のはずなのに、トイレ以上に狭いと感じる感覚と猛烈に広い空間にポツンと一人いるかのような感覚が交互にやってくる。
誰も助けてくれない、自分を助けるのは自分しかいないと思わざるを得ない瞬間。

「ひかりごけ」は、「孤独」と「我慢」がキーワードとなっている。
描かれている状況は、現在の日本と間逆。
けれど、70年くらい前の日本で、本当にあった出来事を元にしているんだから驚き。
私がパッと思い出せる「孤独」と「我慢」は、この程度。

人には、他人の状態を推し量ることができることと、推し量りきれないものだと知ること、矛盾しているようだが、両方が備わっているんだろう。
私が想像したリトマス試験紙なんてものが存在しないからこそ、演劇があるんだろう。
この作品を通じて、そんなことを思う。

演出部 小笠原くみこ

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山の手事情社公演「ひかりごけ」
詳細は、こちらからどうぞ。
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