12/10/24

トロイラスとクレシダ

演劇セラピー

世間には秋が訪れているが、山の手事情社は現在戦争の真っ只中である。
演出、舞台美術、衣裳、もちろん俳優の演技、それぞれが大詰めを迎えている。

ところで、私事だが、2年ほど前ヒプノセラピー(前世療法)を受けにいった。
ひどく病んでいたので。
催眠状態に誘導され、自ら語ったところによると私の前世はドイツ人男性で、牢獄に入れられていたらしい。
今となると笑い話だが、当時は自分の知らない存在が自分の中にいると知らされ、なんだかほっとしたのをおぼえている。
自分すら知らない誰かが、自分の中にいる。
そこは信じていいところ。
つまり、私の中にはギリシア人もトロイ人もいる。
最近はもっぱら自分の中のギリシア人を探している。

衣裳作業に追われるギリシア人
忙しすぎてごはんを食べる時間のないギリシア人
演出家に怒鳴られるギリシア人
後輩にバカにされるギリシア人
にぶいギリシア人
眠いギリシア人
怒るギリシア人
・・・
あぁ、私は誰、ここはどこ。

自分とはなんと実態のないものか。
なのに、演じようとすると自分がむくむく出てきて邪魔をする。
厄介だが、そこが面白いところでもある。

『トロイラスとクレシダ』という作品の中には、本当にいろんな人物が登場する。
舞台の上で動き回る登場人物たちは、果たして自分の中にもいる人だろうか。
知らない自分を発見できるだろうか。
そんな風に見ていただけると幸いです。

安部みはる

12/10/23

トロイラスとクレシダ

問題作

『トロイラスとクレシダ』は、最初は悲劇と呼ばれ、次には喜劇と呼ばれ、最終的には問題作と定義されました。
「シェイクスピアの問題作で世に切り込む!!」とか、電車の中刷りに宣伝してあればかっこ良く聞こえるかも知れませんが、古典で問題作というと、ただでさえ近づき難いところに輪をかけて立ち入り禁止のロープでも張られた気分になります。

その問題作に興味を持ってしまった、劇団山の手事情社。入らないでと言われると入りたくなる、子供のようだと我ながら呆れますが、好奇心というのはどうしようもないのです。

意気揚々、作品作りという船に乗り込んだ劇団員。しかしながら、どうオールを漕げばいいのかわからない。この作品、一体何を言いたいの?
戦争中なのに戦闘シーンは殆どない。ラストシーンはピンとない。恋愛も筋が通らない。とにかく色々な事が中途半端。

それでも漕がねば進まないので、各々考えてオールを回します。時にはオールをぶつけながら。

混乱した頭の俳優達へ船長の安田から、「犬とカラスになれ」という指示が飛ぶ。進路がわかり喜んだのもつかぬ間、自分達が人間という事実を突き付けられ苦しむ一同。それでも叫ぶ。「ウーーッ、ワン!!」「カー!! カーカー!!」「ワオーン」「ギャーギャーカー!!」
近隣の目が少々気になる。が、わかるものからやっていくしかないのが現実。叫び続けてボロボロになり始めた俳優達に安田から次々指示が飛ぶ。やっぱり叫ぶ「ガゥ!! グルルルル」「アギャー!! ギュアー!!」「ゴグュオーン!!」「ギャギャギャギャグュギュゥエーン」
もうよくわからない。それでも作る。

問題作という巨大な敵と和解し、本番という島に辿りつけるのか。
気付けば本番まであと数日。俳優達も色々な戦闘パターンを身につけて来た。
翼も持った、犬の足も持った、牙も持った、クチバシも持った。もう色々出来るはず。さぁ今日も行くぞ。
「ボビョブフュン!!」「ギョヴヨーン!!」

小栗永里子

12/10/20

トロイラスとクレシダ

難しいが…

もう半年近くアキレス腱の痛みがおさまらない。
まともに運動も出来ない。
スポーツ医、整形外科、、カイロ、フットケア、手技、
あらゆる治療法をやってきたが一向に治らず、結局もっとも信頼できる鍼灸の医者から言われたのは、「老化」という言葉だった。
なるほど。
そんな僕が今回やる役のひとつが皮肉にもアキレウス。
アキレス腱の名前の由来であるギリシア神話に登場する英雄である。
トロイア戦争でギリシア側の無敵の英雄として活躍するアキレウス、映画ではブラピも演じていたように、体の大きい筋骨隆々の武人のイメージだ。
小柄な僕とは正反対。
こんな僕でも平気でアキレウスの役をやれるのは《四畳半》のいいところか。
思い込みひとつで何にだってなれる。
しかしこの「思いこみ」というものがとてもやっかい。
たとえ嘘でもとりあえずその気になって思い込まないと演技なんて出来ないし、かといって思い込みなんて簡単にできるものじゃない。
憑依するほどの思い込みでないと、芝居になりはしない。
といって仮に100%思い込めたとしても、勝手な思い込みは観客から見れば、やってるつもりの一生懸命の演技に過ぎない。
とにかく《四畳半》は難しいのだ。
体に負荷をかけ続けてアキレス腱炎になるほど《四畳半》をやってきたが、不思議なのは、やり続けるにつれて簡単になるどころか、やればやるほど、難しく感じられてくることだ。
でもその難しさはそのまま舞台の面白さと紙一重なのだ。
今回の『トロイラスとクレシダ』、
そんなことがお客さんにも伝わるようなところまではもっていきたいと思うのだ。

山本芳郎

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