10/05/29

オイディプス王

シビウ2日目。

小笠原です。
今日は、1日中稽古。最後の仕上げにかかります。
嫌でも緊張が増してきました。

役者は、稽古場に1日中こもりきり。
その稽古場。全部水色。壁も床もカーテンも。
部屋のコーディネートに笑っている場合ではなく、ひたすら稽古。

一方、スタッフは、必要に応じて各々の動きを展開。
舞台監督は、劇場のたたき場へ行き、ビール片手に、我々のセットが作られる過程を眺めています。
なにしろ、我々のセットなのに、こちらに作らせてくれないんですから。
そのため、ビールという、おきらくな態度と見せるための小道具を片手に、
ゆる〜い態度で眺めては、
スキを狙って手を出せるチャンスを待っていました。

一方、今回スタッフとして同行している劇団員の永里子は、美術で使うフェイクファーの敷物作り。ひたすらミシンで縫い作業。
こちらも劇場の衣装部屋に押しかけ、得意の笑顔と甘い声ですべてをカバー。
その笑顔に食らいついた、衣装部屋のオッサンとオバチャンがフォローしてくれ、最後には日本語も少し覚えております。

夕方には、スタッフと安田さんを交えて、明日の本番に向けて細かい動きを相談。
昨年と同じ劇場である強みを生かし、細かい点まで話し合います。

さて。明日は本番。
メイン会場の「ラドゥ・スタンカ劇場」へ乗り込みます。

10/05/28

オイディプス王

シビウ到着です。

演出部の小笠原です。
ここからは、できる限り現地日誌をアップしていこうと思います。

我々一行は、5月27日に成田を出発しました。
飛行機を乗り継ぎ、バスに乗り換え、かれこれ移動時間は24時間以上を経過。
やっと、目的地シビウ市へ到着。
町並みを見た瞬間から、昨年の興奮が一気によみがえりました。

バスで移動中、宿泊するホテルが変更するとか、しないとか。
オーダーしていた美術セットができているとか、今はないとか。
イギリス人の、えらい人?が安田さんと話したいとか、明日話すとか。
別なカンパニーの公演は、完売で見られないとか、でもゴリ押しすれば見られるとか。

一事が万事、こんな感じ。
まあ、でも、昨年このあたりの「お国柄」は学習済み。
それも含めてのシビウ国際演劇祭。

フェスティバルが今日から始まり、街が色めきたっています。
シビウ公演まで、あと2日。
明日は、1日中稽古です。



10/05/24

オイディプス王

演劇のメジャーリーグ

間もなくはじまるシビウ国際演劇祭。
ルーマニアは、日本ではなじみがうすい。
コマネチ? チャウシェスク…ちと古いか…あとドラキュラ?
その、一地方都市に過ぎないシビウだが、
演劇界で言えば、間違いなくメジャーリーグだ。
20年にも満たない歴史しかないのに、
イギリスのエディンバラフェスティバルや、
フランスのアヴィニョンフェスティバルと肩をならべる、
ことによるとそれをこえる評価を得ている。

3年前に観客として見に行って、度肝を抜かれた。
10日ほどの間に20数本の芝居を見たが、
そのうち6本に同じ俳優がほぼ主役で出演していた。
演出家も、タイプも違う芝居なのに。
少なくともそういう俳優が3人はいた。
6本以下ならぞろぞろいた。
1本しか出ていないけれども、すごい!
という俳優もうじゃうじゃいた。
芝居の方も、よくこんなのやるねという
日本じゃ絶対にお客さんが集まらない実験性の高いものから、
げーっと落ち込むくらい深い解釈のもと
原作を忠実に上演した超優等生作品まで、
びっくりするほど幅広かった。

日替わりで別の芝居、しかも本番前には
必ずリハーサルをこなす。
この体力とキャパシティがメジャーと断じるゆえんだ。
その3人が20代と聞いて、さらに驚いた。うますぎる。
案の定、1人はルーマニア国内演劇の
年間主演女優賞を獲得した。
昨年はその女優、オフィリア・ポピーが主役をつとめる舞台「ファウスト」がエディンバラフェスティバルに招待され、大評判になった。
その「ファウスト」、なんと百人近い出演者がいるにもかかわらず、オフィリアはファウスト博士以外のすべての役をやっていた。
まさに彼女の独壇場。
演劇のファンタジスタは、そのように存在する。

すごいことをするやつらの背後には、
必ずうるさい観客がいるものだ。
アメリカの野球だって、ブラジルのサッカーだって、
三度のメシよりそれが好き、という観客が支えている。
客席に座ってそういう演劇狂たちと熱い視線を共有するのも、シビウの魅力の一つだった。
俳優をこんな視線にさらしてみたい。
こんな視線をあび続ければ、うまくならないわけがない。
山の手事情社の舞台も見てくれい。
そんな思いで、昨年「タイタス・アンドロニカス」を持っていった。
キリキリする緊張の中、思わず叫び出してしまいそうな衝動が、客席の自分の内を走る。
どっと疲れたが、久しぶりに生きている気がした90分。
客席は思いもかけない熱狂。
今年もあこがれのラドゥ・スタンカ劇場で上演できることになった。

給料も、いごこちもよい国内リーグを離れて、
海外のリーグに行く野球やサッカーの選手のことが、
給料も、いごこちも悪い日本演劇界に棲む私だが、
今ならばよくわかる。
きびしく、おそろしい、
いい舞台と聞けば、
とるものもとりあえず劇場にかけつける観客に、
自分のプレイを見て興奮してもらうことが、
プレーヤーたる者にとってはなにものにもかえがたい、そのために生きていると言ってもいい、
贅沢な至福のときなのである。

安田雅弘

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