10/06/20

オイディプス王

視線の力

只今の時刻は早朝4時35分。

帰国して数日が過ぎようとしているのに、
いまだ時差ぼけなのか、不眠の日々が続いている。

眠ろうと思っても、台詞がよぎり、
自分ダメだしが始まりかえって疲れる。

もう今日は眠るのをあきらめ日誌を書こう。


9月公演が控えているのでオチオチ過去の事に浸って
はいられないのだけど、ルーマニア公演・ハンガリ―
公演の本番中の感じは思い出すだけで興奮してくる。

ルーマニアもハンガリーもどちらもたった一回公演。

莫大のお金と労力をかけてたったの一回公演!!

失敗は許されない!
とことん見せてやる!!
楽しませてやるぞ!!

劇団員みんなの気合いがつまったエネルギッシュで
熱い公演だったのではないかと思う。
日本人のエネルギーをしっかり見せられたのではないかと思う。


観客もエネルギッシュでギラギラしている。

さあ今回はどうくるか!?
見てやるぜ〜!!

というような熱をもって客席でうずうずしている。
自分達からつかみにくる、楽しませてくれよと。
熱い視線を感じ、客席全体がとてもよく見えた。
目で見えたというより身体が全ての観客を感じた。

観客の熱さで、こちらもさらに燃え新たな力が溢れ出てきた感じがした。

そしてどちらの国も言葉が分からない分、ものすごい勢いで私の中まで
入ってくる、私の心の動きを逃さないぞという集中で向かってくる。
すごい力を感じる。
じゃあこちらも見せてあげますよと裸になれた、というか
今までとは違う集中で観客に向かうことができ、
見せる方・見る方 「演劇」の良い関係ができたのではないかと思う。



しかしまぁ、この情熱的な視線は本当に興奮する。
毎回感じている俳優達が本当にうらやましい。
観客とのやりとりが確実にある。
厳しくもあたたかい視線。
たった一回だったがこの視線を受けて
私の中の何かは確実に変わった。


それがいい状態で東京公演で出すことができるよう
この感覚はなくさないようにしたい。


山口笑美

10/06/19

オイディプス王

本番終えて

ハンガリーでの本番を終え、最後の自由行動の日に男優と舞台監督の本さんと7人で近くの温泉に行ってきました。
なんでもハンガリーには温泉が沢山あり、社交場・観光地としても盛り上がってるとのこと。

ハードなスケジュールで疲れた身体を癒す為こりゃ行くしかないと朝10時にホテルを出発!
文が調べてくれていたバス停に徒歩10分で到着!
バス停が20程混在しているターミナルだ!
わからん!
どれに乗れば良いのか?
立往生する日本人7人!

困っていると、地元のガタイの良いお兄さん2人(おそらく学生)が声を掛けてきた!
地元「(慣れない英語で)どこ行きたいの?」
俺「お、温泉…」
地元「あ〜それならエイト…」
俺「エイト?8?」
地元「うん、そう、エイト…」
どうやら英語での説明が難しい様だ。
俺「8分後にバスが出発するってこと?」
地元「ノー、そうではなくて…」
俺「あ〜わかった!運賃が8フォリント(約4円)って事だ!」
地元「…?アッハッハ(苦笑)、ノー。フォローミー」
そう言って彼らは8番のバス停に連れていってくれました。そうかエイトって8番のバス停の事か。
良く考えたらバスに4円で乗れるわきゃない。
しかしなんて優しいヤツらだ。彼らの事をナイスガイズと呼ぶ事にしました。
程なくしてバスが到着。どうやらナイスガイズも乗る様だ。
そしてバスが発車して、ある事に気付く。

降りるバス停の名前がわからん!

浦「ヤバイィィ!どこで降りれば良いんですか?」
俺「え?直行便じゃないの?」
岩淵「なんか風景で判断するしかないのか?オイィィィ!」

山本「もし温泉に着いても俺らが降りなけりゃ前に座っているナイスガイズがここだよって教えてくれる筈だよそれにタダでさえ目立つ異人である日本人がバスの中で浮かれてるからまわりの乗客達があいつら温泉に行くんだなってバレてるから心配ないって駄目押しで地球の歩き方開いて旅行者アピールしとこう」
一同「……」

30分後ほとんどの乗客がバスを降りたから、便乗して降りてみたところ……温泉到着!

一同「よっしゃあああ!」

よく見るとさっきのナイスガイズが女の子2人と仲良く話している。あいつら休日に温泉デートだったのか…青春してやがるな…

こっちの温泉は水着着用が義務。皆この為に日本から水着を持参!山本さんは売店で水着を購入!

回数券を(ちょうど七枚綴り!)買っていざ入場!

着替え場所がわからん!
受付でドレスルームを連呼して、着替えるジェスチャーを披露するも全く通じない。
仕方なく受付のお姉様が一緒に案内してくれる。ハーメルンの笛吹状態の俺ら。
そして数分後、やっと水着に着替える!
しかし斉木、お前のは普通の長ジャージだ!
そして山本さんはさっき買った水着のウエストがデカ過ぎて四苦八苦している!ほっておこう!

こちらの温泉は見た目プールでぬるま湯、ほんのり硫黄の香りがします。
「イヤッホ〜!」
はしゃぐ日本人。
しかしまわりにいる方は皆丸々と肥えた年配ばかり。期待した水着美女は幻の彼方へ。

仕方なく潜水競争をしたり、チェスに興じたり(なぜかプールサイドに置いてある)、休憩がてらビールを楽しむ男優。
本番を終えるとここまでダラけるものなのか…

3時間後、硫黄の匂いにやられ少し気持ちが悪くなって温泉を出ました。
皆でジェラートを頬張りながら…

あれ…

帰り方がわからん!

川村岳

10/06/18

オイディプス王

言葉じゃない・・・でも

シビウの演劇祭でGavriil Pinte演出の『A GUIDE TO MY RECLAIMED CHILDHOOD』という芝居を見た。
アメリカに亡命したシビウ出身の実在の詩人が主人公で、
彼の若い時代の思い出が次々とシーンとなって語られる作品、らしい。

アートハウスと呼ばれるスタジオに入ると
真っ白な舞台美術のなかで、俳優たちがまるで人形のような不思議な所作で演技をしている。
両側に自転車が4台ずつ並び、音楽隊がそれを漕ぎながら演奏している。
どうやら自転車をこぐと演技をしているエリアの照明が灯る仕掛け。

なんだこりゃ。

入るなりワクワクして、これは面白いと直感した。

俳優たちが瑞々しい。
印象的なシーンの連続。

片桐はいり似の女優の歌声、
女教師が赤い布を剥ぎながら(ヌードになって)
若い主人公を誘惑するシーン、
運命のように詩人を導く黒いドレスの美女、
三角関係になる2人の女の子の歌とダンスと笑顔、
たまにしか出てこないオーバーアクティングな老人、
「Hey Jude」の合唱・・・

演じているのはルーマニア人の俳優たち。
もちろん台詞や会話の内容なんて全くわからない。
でも、彼らの演技や動きが全て伝えてくれる。
私はえもいわれぬ幸福感に包まれ、
ずっとここにいたいと思った。

終演後、いったん外に出たが
後輩谷口(ダンディな主人公に惚れた)に連れられ会場に引き返す。
入り口付近に演出家がいた。
彼にひとこと挨拶して感想を伝えたい。
しかし、どうやら英語が通じない様子。
となりにいた女性(本作の脚本家)に
通訳してもらうことにする。

・・・来ない。

言葉が、
出て、来ない。

とにかく、
私たちは日本から来た、
初めて見た、
感動した、
言葉じゃないんだ、

えらくたどたどしく訴えていたはずだ。
いっそ踊ってしまえばよかったのかもしれない。

“Thank you.”

その声も、
握手してくれた手も、
すごく温かかった。

芸術は言葉の壁を越える。
でも私は、
なんだか敗北感。

越谷真美

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