あらゆる職業、その道のプロともなると、
はたから見て「へぇ」とか「ほぉ」とか、
驚かれたり、感心されたりする道具を持っているものだ。
おそらく、同じ職業の人たちならば、
何ら珍しいことではないのだろうけれども。
照明さんがいろいろな照明の形にくりぬかれた定規をもっていた。
図面に、そのくりぬかれたところをあてて、へりを鉛筆でなぞると、
その照明のシルエットがあらわれる。
使うあてなどないが、
ちょっとほしくなったりするのは、
文房具屋に並ぶ小物たちを見ると、
ついつい時間を費やしてしまうのと同じだ。
音響さんのデジタルメトロノームも、
専門家には、どうってことないのだろうが、驚いた。
いうなればリズム測定機。
指定したテンポで「ピッピッ」と音が出る。
かかっている音楽の速度に合わせてボタンを押すと、
1分に何拍という表示が出る。
持っていても絶〜対に使わないが、
少しほしくなったりする。
昨年、劇場の下見をしていて、
この場所に上から物を落したいんだけど、
そんな都合のいいところにバトン
(天井から吊られている照明や装置用の棒です)
あるのかぁ? とつぶやいたら、
舞台監督さんが赤外線ビームの出る水平器を出してきた。
舞台に置くと、その場所から垂直に光線が走って、
バトンの位置を検討できる。
劇場の天井は大抵高く、暗いものだからこれは便利。
いやこのご時世、あるだろうこの程度のものは。
と思い返したが、それでも物珍しさに負けて、
必要のないあちこちの水平や垂直を取ったりして叱られた。
俳優は「わたしたちは、からだひとつで」みたいな、
きどったことを、よく口にしているが、
本番が近づくと、小道具やら衣装やら
メイク用品やら、楽屋のお守りやら、
お客さまからの差し入れやら、
いろいろなものに取り囲まれて、なにやら誇らしげである。
今回のように、二本立てとなると、
それぞれかなりの量になる。
それに比べて演出の道具、貧弱だ。
ストップウォッチ…ふつうだなぁ。
その上、計測は大抵誰かにお願いしていて、手にすることもないし。
ダメ出し用の紙、パソコン。
演出ならでは、という道具ではない。
あえて挙げれば、目薬と虫刺されか。
わざわざひけらかすたぐいのもんじゃない。
でもほかに思い当たらないんですワ。
目薬はおわかりでしょう。
舞台を見て、ふてくされるのが演出というしごとだから、
どうしても目に負担がかかる。
稽古につかれたときには気分転換にもなる。
シューズのひもが解けた、
とかいって時間稼ぎするサッカー選手に似てる。
虫刺され。
この暑さで虫が大量発生、ではない。
稽古を見ていると、どういう具合か、
身体や顔がかゆくなることがある。
刺されたわけでもなく、
じんましんのように痛かったりかゆかったりするわけでもない。
身体を動かしている時なら、問題にもならないかゆさ。
ただ、じっとしていると気になる。
無視しようとすると、もっと気になる。
いらいらして、舞台で起こっていることを見落とす。
スーッと塗って問題解決。
って、ほんとにどうってことないなぁ。
安田雅弘
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