11/07/12

傾城反魂香/ルーマニア

再会!?

ルーマニア公演、今年もたくさんの方が劇場に足を運んでくれました。

この会場に来てくれた方々とは公演後は二度と会えないかもしれないと思い、観に来てくれた方々一人一人に「ムルツメスク!!」(ルーマニア語で「ありがとう」)とお礼を言いながら握手をしたくてウズウズしていました。
残念ながらそれは難しいので、カーテンコールで客席の一人一人の顔を目に焼き付けようとしていました。

二都市目に訪れたトゥルダ公演の時は、カーテンコールがとても長かったので、観客一人一人の表情がとてもよく見えました。
皆さんとてもあたたかい笑顔であたたかい拍手をしてくれています。家族で来てくれている方も多く、子供もたくさんいます。
更に見渡すとサンタクロース似の大きな体のおじ様が一瞬目にとまり、
「どこかで会ったような・・・」
と思いましたが、あまり気にせず、
この大勢の方々と、もう一度会える事はそうないだろうと、とても寂しくなりながらカーテンコールを終えました。

その後、劇場側が主催してくれたパーティ会場に行くと、先ほどカーテンコールで目にとまったサンタクロース似のおじ様がいます。
なんでもトゥルダの俳優とのこと。
この機会にルーマニアの俳優がどんな訓練しているのか聞きたいと思い、通訳の志賀さんと共に彼に話かけました。訓練の事をたずねると
「俺の訓練は食うことだけさ。はっはっは〜(豪快な笑い)」
聞く人を間違えたようです。
するとサンタクロースおじ様の奥様だという可愛らしい笑顔の女性が
「私も話したかったのよ!」
と話しかけてくれました。

話を聞くと、彼女は日本がとても好きで、さらに彼女のお父様も黒澤映画が大好きで彼女の名前を日本の[椿]から取って[カメリア]としたそうです。
カメリアさんは、日本の震災の状況をとても心配していましたが、
「日本人のエネルギッシュな素晴らしい舞台が見られて本当に良かった。」
と少し安心してくれたようです。
更に聞くと、
2年前に山の手が初めてルーマニアツアーを行なったときにブルチャという都市で上演した『タイタス・アンドロニカス』も観ているとのことでした。
ご主人も一緒に見ているとのこと。

驚きと感動でウルウルしながら、
「トゥルダとブルチャは遠いのに、わざわざ行ったの?」
とたずねると、
ルーマニアの俳優は劇場契約で活動しているので、一つの都市で何年か活動すると別の都市に移るそうで、私たちが2年前ブルチャ公演に訪れた時はカメリアさん夫婦はブルチャの俳優だったとのこと。
「ブルチャで『タイタス・アンドロニカス』を観て感動して心に残っていたの! 今年トゥルダの俳優になったら、また山の手と出会えた、とても嬉しいわ。」
と目をキラキラさせて興奮して話してくれました。

そう言われてみれば・・・
2年前のブルチャの客席に彼等を見たような!?
あの時も二度とここで公演することはないだろうと思い、あたたかく迎えてくれた観客の姿を目に焼き付けておこうと思っていました。
サンタクロース似の大きい彼の姿はめちゃくちゃ目立っていたし、隣にいたカメリアさんの笑顔も!!
フラッシュバックして泣きそうになりながら、
お互い「運命運命!!」とウルウルしながら、再会を誓って別れました。

少しずつですが、地球の反対側の人達の心にも確実に山の手事情社の作品が刻み込まれてきているんだと確信しました。
もっともっとたくさんの人の心に響く作品を作っていきたいと思います。

これからも精進して、日本の皆さんにも楽しんでいただける舞台にしていきますので期待していて下さいね。

暑さが更に厳しくなりますが、夏バテにお気をつけてください。
12月に劇場でお会いできる事を楽しみにしております。

山口 笑美

11/07/11

傾城反魂香/ルーマニア

異文化

ルーマニアツアー最後の地、ブカレスト。
都会である。
道が広い、ビルが建ち並んで、見慣れたチェーン店が点在する。ここは東京と変わらんぞと思って、帰国して、新宿に行ってびびった。
都会がいいならルーマニアくんだりまで行く必要まったくなし。久しぶりに足を踏み入れた新宿は「ニューロマンサー」さながらのサイバー都市でした。
このあからさまな風俗街と、呆れるぐらいに溢れかえる人と、自由極まりない個性豊かなファッションの人たちが群れているこの街は、もし俺が外国の田舎者で初めてみたらかなりびびる。
しかし、海を挟んでどえらく離れたこの2都市もどんどん似た風景になっていくに違いない。
それをグローバリゼーションと言うのだろう。
そしてそれに歯止めをかけるのが文化なのだよ。
と小難しいことをほんの少し考えた。
近松門左衛門という、ルーマニア人にとっては全く馴染みのない、まさに異文化、ローカルの極みの作家の作品を持っていきましたが、
はたと思う。
近松門左衛門って日本で上演しても、現時点では日本人にとっては全く馴染みのない、まさに異文化、いまやローカルの極みなのでは。
これは国内でありながら、外国人に見せるようなものかもしれない。
挑戦のしがいがあるってものだ。

閑話休題。
帰りの飛行機でおばさまがたに四方を固められる。
日本人のツアーご一行様である。
隣りの席には80歳ぐらいのおばあちゃん。
10時間以上もかかるこれからのフライトを辛抱出来るのか? と心配になる。
中央の3席は左はじに俺、真ん中にくだんのおばあちゃん、右はじにツアー客のおばさまの布陣。
この右はじのおばさまが同じツアー客なのにも関わらず、おばあちゃんに微妙に不親切。
なので、少しだけ親切にする。
荷物を上の棚にあげる。(これはまあ当然だろう。)
座席についているモニターの使い方を教える。(フライトは長いしね。)
機内食のアルミラップをはがす。(固くて開かないよ。熱いし。)
というわけで少し会話。
早稲田大学の講堂で木下順二のお芝居を見たことがあって、
ジロドゥが好き。
しかも「傾城」の漢字が読めて、意味もわかっていた。
超レア。
とても教養がある。
こういう人ばかりなら、古典のテキストを上演しても、暖かく迎え入れてくれるだろう。
だがしかし、
今、向かっている街はそんな甘いことは許さない。
古典が教養だった時代は終わっているのである。
さあ、次は東京公演だ。

斉木和洋

11/07/04

傾城反魂香/ルーマニア

快挙

今、ルーマニアは資本主義の波が押し寄せ、大きな変化を遂げようとしている。
山の手事情社がルーマニア、シビウ国際演劇祭に毎年出展して3年が経った。
2009年当時はまだ野良犬が町を闊歩し、治安も決してよくはなく、夜一人で歩くと少し恐い感じがし、フェスティバル期間中のセキュリティーチェックも甘く間単に芝居を見ることができた。
今年は一変し、野良犬は町から消え、警察官による怪しい人への職務質問、フェスティバルのセキュリティーチェックも厳しいものになり、安心して町を歩ける環境へと変わりつつある。
いろんな情報が飛びかい、流行も少しずつ変化し、国民の価値観が変わる中で、
山の手事情社は3年連続メイン会場(ラドゥスタンカ劇場)での公演、
一昨年に続き今フェスティバルの最高作品に選ばれ、過去18回を数えるフェスティバルのなかで演出家の安田雅弘が外国人演出家なかで優れた演出家のトップ3に入る快挙を成し遂げた。
日々大きく変化するこの国で3年連続評価を得ることはただ事ではないと思う。
正直、とんでもない現場(山の手事情社)に足を踏み込んでいることに恐怖を覚える。

別に自慢をしたいわけではない。ただ『事実』をお伝えしているだけである。
日ごろ山の手事情社の公演にお越しいただいているお客様の応援なしでは、また、たくさんの方のご支援なしではここまでは来られなかったと私は思っている。
応援、ご支援いただいた皆様のためにも私は声を大にしていいたい。

「ヨーロッパ3大演劇祭の一つといわれている、シビウ国際演劇祭で劇団山の手事情社は最高の評価を得ることができましたッ!!!」

しかし、ここで終わるつもりは私にはさらさらないし、これからやらなくてはいけないことが山ほどあります。より優れた作品を作ることが皆様にできる最高の恩返しでしかありません。そのためにも本当の本番は海外公演だけではなく、12月のアサヒ・アートスクエアでおこなわれる、凱旋公演であることは言うまでもない。

浦 弘毅


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