12/10/23
問題作
『トロイラスとクレシダ』は、最初は悲劇と呼ばれ、次には喜劇と呼ばれ、最終的には問題作と定義されました。
「シェイクスピアの問題作で世に切り込む!!」とか、電車の中刷りに宣伝してあればかっこ良く聞こえるかも知れませんが、古典で問題作というと、ただでさえ近づき難いところに輪をかけて立ち入り禁止のロープでも張られた気分になります。
その問題作に興味を持ってしまった、劇団山の手事情社。入らないでと言われると入りたくなる、子供のようだと我ながら呆れますが、好奇心というのはどうしようもないのです。
意気揚々、作品作りという船に乗り込んだ劇団員。しかしながら、どうオールを漕げばいいのかわからない。この作品、一体何を言いたいの?
戦争中なのに戦闘シーンは殆どない。ラストシーンはピンとない。恋愛も筋が通らない。とにかく色々な事が中途半端。
それでも漕がねば進まないので、各々考えてオールを回します。時にはオールをぶつけながら。
混乱した頭の俳優達へ船長の安田から、「犬とカラスになれ」という指示が飛ぶ。進路がわかり喜んだのもつかぬ間、自分達が人間という事実を突き付けられ苦しむ一同。それでも叫ぶ。「ウーーッ、ワン!!」「カー!! カーカー!!」「ワオーン」「ギャーギャーカー!!」
近隣の目が少々気になる。が、わかるものからやっていくしかないのが現実。叫び続けてボロボロになり始めた俳優達に安田から次々指示が飛ぶ。やっぱり叫ぶ「ガゥ!! グルルルル」「アギャー!! ギュアー!!」「ゴグュオーン!!」「ギャギャギャギャグュギュゥエーン」
もうよくわからない。それでも作る。
問題作という巨大な敵と和解し、本番という島に辿りつけるのか。
気付けば本番まであと数日。俳優達も色々な戦闘パターンを身につけて来た。
翼も持った、犬の足も持った、牙も持った、クチバシも持った。もう色々出来るはず。さぁ今日も行くぞ。
「ボビョブフュン!!」「ギョヴヨーン!!」
小栗永里子