12/07/11

女殺油地獄(ルーマニア)

番外編日誌 「ファウスト」(6月6日-2)

やはりというか、残念なことにというか、
この作品が一番のできだった。
悪かったからでなく、
とびきりよかったからなのだが、
それにしても2008年の作品である。
他の作品もがんばれよ、
と自分も含め奮闘を促したい。
山の手事情社も、来年以降参加する場合は、
心してかからなければならない。
「これがつまらなかったら、このフェスティバル、
お代はいらないよ」
と正面切って啖呵を切られたような
文句のつけようがない芝居なのである。

ファウスト博士が
悪魔メフィストフェレスにそそのかされ、
若さを手に入れて、若い女と恋愛し、
ほかにもいろいろと人生を遊びつくして、
楽しさ苦さを味わいつくして死んでいく。
本来第一部にある「ワルプルギスの夜」を
第二部との間にはさみ、
第二部は大幅にカットされている。
休憩なし、2時間。

セリフがあるのはファウストを演じる
イリエ・ゲオルゲと
メフィストフェレスを演じる
オフェリア・ポピーだけ。
2人ともうなるほどうまい。
やりたいようにやっているように見えるが、
計算づくだ。少しもはずしていない。
総出演者は75人ほどにもなる。
イリエは「私のあらし」でも主役を演じた
年配のとてもいい俳優さんだ。
この人が若化粧をするとひどくグロテスクで、
「ファウスト」という作品の持つ迫力が
文学とは違った形で浮かび上がる。
その若作りジイさんが、
女子中学生くらいの女性に恋をする。
「こんなにキモイ世界なんだ」

圧巻は「ワルプルギスの夜」で、
観客は全員席を立たされ、別会場に移動させられる。
ヘビメタががんがん流れる中、
魔女の儀式をイメージしたシーンが
視覚的に次々と展開する。
火を吹く男、空中を飛び交う人々、
頭に豚の生首を乗せ
血みどろになりつつ裸で歩く女、
奴隷のように整然と行進する
白塗り白衣裳の男たち、花火…。
ふたたび席に戻ってファウストの死と、
突然の終演まで飽きさせない。
改めてルーマニア演劇の底力を見た気がした。

(つづく)

本稿の舞台写真はシビウ国際演劇祭から提供を受けたものです。
他の写真は山の手事情社が撮ったものを使っています。

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山の手事情社次回公演!
「トロイラスとクレシダ」原作/W・シェイクスピア
2012年10月24日(水)-28日(日)
東京芸術劇場 シアターウエスト
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12/07/11

女殺油地獄(ルーマニア)

番外編日誌 シビウ国際演劇祭終わる(6月6日-1)

今日が6日水曜日で、
フェスティバルは3日日曜日に終わった。
10日間。
最後の4日間でよかった舞台を紹介しておこう。
5月31日にチズナディオラ要塞で見た、
ギター演奏「現代ギターの夕べ」。
翌1日に見たプルカレーテ「ファウスト」。
民俗博物館とトラムを使った2日の
「シオランの誘惑」。
最終日ラドゥ・スタンカ劇場で見た
「わが青春最後の日」。

「現代ギターの夕べ」の会場、
チズナディオラ要塞は、
市内からバスで20分ほど移動した
小高い丘の上にある。
要塞といいつつ中は教会で、
周囲を少し高い塀で囲っている。
オスマン帝国からの防御のためだったのだろう。
シビウの市街と同じように城壁で覆われている。
今では想像しにくいが、
勇ましいイスラム教徒たちが
こんなところまで攻めてきていたのだ。
馬のいななきや、
軍楽隊の演奏が遠くから聞こえただけで、
地域の人たちは震えあがったに違いない。

山頂の素朴な教会でギターの演奏。
演劇主体のフェスティバルだが、
音楽や大道芸のプログラムも
並行して組まれている。
箸休めになる。頭がほぐれる。
メキシコのギター4人組で、
クラシックギターでさまざまな現代音楽を演奏。
アンコールでは狙ったかのように停電。
ろうそくの灯りの中に
4人のシルエットが浮かび上がり、鳥肌が立つ。
ギターの音色が身体に染み入った。
ごちそうさまでした。

(つづく)

写真は「現代ギターの夕べ」。

本稿の舞台写真はシビウ国際演劇祭から提供を受けたものです。
他の写真は山の手事情社が撮ったものを使っています。

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山の手事情社次回公演!
「トロイラスとクレシダ」原作/W・シェイクスピア
2012年10月24日(水)-28日(日)
東京芸術劇場 シアターウエスト
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12/07/11

女殺油地獄(ルーマニア)

番外編日誌 「鹿の家」(5月31日-5)

28日22:00からの「鹿の家」。
フェスティバルでこの時間の開演は珍しくない。
会場は昨年までなかった国立大学の体育館。
体育館の半分ほどの床を白いリノリウムでおおい、
その上におびただしい鹿のオブジェが並ぶ。
11人出てきた俳優たちは大半が
並はずれたダンサーでもあり、
英語とフランス語でセリフが語られていくように、
演技とダンスがないまぜになって進んでいく。
「鹿の家」という鹿猟のための小屋を舞台に、
暴力と物語の関係が語られる
一種のメタシアターである。
一瞬の爆撃で、私たちは命だけでなく
すべての物語を失うのだといったメッセージが
さりげなく盛り込まれていたりする。
「鹿の家」に住む娘の死をきっかけとして、
その家の中で起こる殺人、
それを悲しむ人々が描かれている。
フランス語のセリフは皆目わからないし、
字幕はルーマニア語なので取りつく島がない。
けれどもこの語り口は何とも新鮮で魅力的だった。

(つづく)

本稿の舞台写真はシビウ国際演劇祭から提供を受けたものです。
他の写真は山の手事情社が撮ったものを使っています。

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山の手事情社次回公演!
「トロイラスとクレシダ」原作/W・シェイクスピア
2012年10月24日(水)-28日(日)
東京芸術劇場 シアターウエスト
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