13/02/19
「ひかりごけ」稽古場日誌
『ひかりごけ』という作品では、遭難した4人の登場人物が、真冬の北海道知床半島で、飢え、生命の危機に直面し、究極の選択を迫られるのだ。
死んだ仲間の肉を食って生き延びるか、食わずに人間の尊厳を保ち死ぬか。
人類の長い歴史を考えると飢えていた時期のほうが圧倒的に長いのだ。
人類の始祖を何に考えるかは諸説あるが、ダーウィン先生を信じるならばヒトの祖先は猿なのだ。
猿から猿人に、そして、ヒトになったときに何があったのか想像してみる。
考古学にも諸説あるが、猿人の知能は驚くほど高かったのである。
石器を使って、狩りをして、火を使って調理をし、暖をとり、住居を作って、集団生活をしていたのである。
石を磨いて、矢じりをつくり、集団で狩りをする。
こいつは、「はじめ人間ギャートルズ」や「モンスターハンター」の世界だが、苦労してマンモスを狩るよりも、飢えて死んだ仲間の肉のほうが簡単に手に入るのである。
飢えれば仲間の肉を食ったのではないかと想像する。
しかし、誰かがいつからか仲間が「死んだ」と思ったのだ。きっと。
仲間の姿が消え、声が聞こえなくなり、淋しいと思ったのじゃなかろうか。
そして、死んだ仲間を弔うようになったのである。
人類の起源はきっとここにある。
仲間がいなくなったことが淋しくて、どこか別のところに行ったのじゃなかろうかと思いはじめ、天と地が意識され、あの世とこの世が生まれ、聖なる ものと俗なるものが峻別され、神が生まれ、弔いが始まり、そしてヒトが生まれたのだ。
仲間の肉を食わなくなって、猿がヒトになったのだ。
「肉を食う」というお話はこれだけ古い物語なのである。
斉木和洋
※写真は、前回公演『トロイラスとクレシダ』から。
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山の手事情社公演「ひかりごけ」
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