13/03/27

ひかりごけ

「ひかりごけ」稽古場日誌/「空中舞台」

今回の舞台「ひかりごけ」。
その見どころのひとつである空中舞台。
劇場に入り、初めてこの舞台美術を目にすることとなったのですが、いやはや良くやるなぁといったのが正直な気持ち。
こんなところで芝居をして、あげくにはあんなことになるのだから。(詳しくは劇場で)
ジェットコースターは乗れても観覧車は怖くて乗れない、高所恐怖症の気がある私には、舞台に立つだけで軽く眩暈が感じられました。
単純な高さで言えばビックリするほど高っ!! というほどのものではありません。
けれど文化学院講堂の空間を生かした特殊な舞台のせいか、ポツンと自分が他の世界から切り取られ、拠り所なく浮遊しているような気持ちにさせられます。
北の海の孤絶感を表象する舞台だというがなるほど、こいつは良く出来ている。
宙釣りになっているわけでもないのに、客席から見ると本当に空中に浮いているように見えるのだから。
お客様の反応が楽しみです。

しかし一方で照明のシュート(光の焦点を調整する作業のこと)や、舞台の修正作業の為に、長くこの舞台に立っていると、初めとはまた別の気持ちも現れて来ました。
最初はこの場にいることが不安でたまらなかったのに、慣れてしまうと普段の空間に戻ることに逆に不安を感じてしまう。
出来ることが限られ、周囲の目を気にすることのない閉じた空間といいのは、不自由だがある種の安心感を感じさせるのかと新鮮な発見がありました。
洞窟の中と裁判所では全く振る舞いが異なり、別人のようになる船長の心境の変化の片鱗が少しは味わえたのではないかなぁと思います。
この特別で素敵な舞台で上演される「ひかりごけ」。
ぜひとも数多くのお客様にご覧いただきたい、自信を持ってお勧め出来る作品となっております。
皆様のご来場お待ちしております。

田中信介

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山の手事情社公演「ひかりごけ」
詳細は、こちらからどうぞ。
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13/03/25

ひかりごけ

「ひかりごけ」稽古場日誌/「モノサシ」

劇中にこんなセリフがある。
「食べちまう葬式[とむれえ]ってえのは、あっかなあ。」
八蔵が、死んだ五助を食べるか食べないかでもめているときに言うセリフ。

このセリフを質問と捉えるなら、答えは「ある」である。

世の中には、死んだ者を食べる文化を持つ民族がいる。
焼いたり、土に埋めたりせず、生きている人間の体に取り込む(食べる)ことで、死者が寂しくないようにするんだそうだ。
私たちが知っている葬式とは、全く違う。

話は変わるが、外国へ行くと、あいさつの際ホッペを合わせたり、抱き合ったりする。
だいぶ慣れたが、やはりまだまだ抵抗を感じる。
初めて会った人と、ホッペをくっつけるなんて、そりゃないだろ。
長年一緒にいる劇団員や家族間でも、そんなのしないぜ。

私の捉えている常識・非常識は、国や時代、法律、倫理観、道徳観、正義感が変われば、常識は非常識で、非常識は常識になる。
モノサシが変わるってことだ。
モノサシが変わることは分かっているけれど、肌感覚で捉えているモノは、なかなかそんなに割り切れない。
普段は頭でしか捉えていなかったことを、感覚で教えてくれるのが、「ひかりごけ」なんだなと思う。
そして、それを演劇にすることで、もっと敏感に伝えようとしているんだなと。

私たちは、時々、自分たちの常識・非常識と捉えていたものに、溺れそうになる。
自分たちのいる位置を、時々客観的に見ることが必要なんだろう。

そんな演劇、見に来てくださいませ。

小笠原くみこ

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山の手事情社公演「ひかりごけ」
詳細は、こちらからどうぞ。
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13/03/24

ひかりごけ

「ひかりごけ」稽古場日誌/「フィクションとノンフィクション」

「ひかりごけ」にまつわる資料の一つに、会田一道さんの書いた、『「ひかりごけ」事件 難破船長食人犯罪の真相』という本があります。
実際の事件の船長本人に会田さんが15年かけてインタビューし、船長の話を事件の時系列にしてまとめた本です。
私も読んだのですが、一人で夜道を歩くのが怖くなると言うか、吐き気が来ると言うか、なんともいえなくなって手で口を押さえたくなる、船長の言葉が書かれています。

実際の事件から結構な時間を経て語っているので、どこまで信じていいのかわからんなぁと思ったり、会田さんの脚色は何かしらあるんじゃないのか? とか、疑ってしまいます。
それは単純に私個人の中で「人食いした人間に対して、そんな簡単に理解してあげられない」という気持があるからです。
同時に、読みながら涙ぐんでしまう自分もいるのですが、「いや、でも私はこの人の気持はそこまでわかってないぞ」と、駄目駄目…と自分の気持を止めては読んで、ぐっとこらえて読んで。
人肉を食べて腹は満たされたものの、小屋の隙間から入ってきた風で火が消えてしまい、猛烈な寒さが再度襲ってきたときのくだりでは、「肉を与えといて、火を奪うのかって何かに叫んだんだよ」と語っているやるせない船長の言葉があり、もう、私は頭抱えて「やーめーてーくれー」となって、本の中にある現実から逃避するためか、笑い出してしていました。
救われた気持にまったくならない、大変興味深い本です。

今回の演目である武田泰淳の「ひかりごけ」。
この残酷な事件に文学性を持たせて作られた戯曲(フィクション)です。
書いた本人が公演不可能だと前書きに書くくらい、ある種の完結を見せるほどに、戯曲としてとてもおもしろいです。
演劇は、フィクションであるからこそ、実際の話とは別の次元のものが見られるのでは? と、私は会田さんの本と「ひかりごけ」を読み比べて思います。

武田泰淳が実際の話をフィクションにした小説「ひかりごけ」に、山の手事情社が、さらにまた一つ違う次元の、演劇というフィクションで「ひかりごけ」をお見せできるよう、劇場では男たちがブラッシュアップし続けております。

文化学院にて、当日、お待ちしております!

中川佐織

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山の手事情社公演「ひかりごけ」
詳細は、こちらからどうぞ。
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