13/03/12

ひかりごけ

「ひかりごけ」稽古場日誌/「男の美学」

私は男性が苦しみ痛む姿を見るのが好きだ。
情けなくて、愛おしくてたまらない。
日常ではあまり見ることは出来ない姿。
しかし舞台上では遠慮なく見放題である。
これぞ演劇の醍醐味。
今回の「ひかりごけ」登場人物は全員男性で、
そして見事に皆苦しんでいる。

稽古を見学した際、劇中では盛んに「我慢している」という台詞が繰り返されていた。
私はふと、この「我慢している」というのは男の美学なんじゃないかと思った。
男性は女性よりも肉体的な痛みや苦しみが得意でない気がする。
その苦手な痛みを自分の中に一生懸命に閉じ込め、
女性の様にヒステリックには叫ばず泣かず、
「我慢する」と、あえて言葉にして言う。
男のやせ我慢、強がりというか誇りというか。男らしいな、と思う。
本当は全然違う解釈かもしれないけれど、
その美学が狂気に変わっていく様が私には垣間見えて、ゾクゾクした。

目の前では斉木さん演ずる西川と、浦さん演ずる船長が、それぞれ空腹と様々な想いに苦しんでいる。
そして船長は西川に向って「俺は我慢している」というのだ。

・・・いいぞいいぞ。

痛め、苦しめ、四人の愛しい男ども。
私はこっそり、ほくそ笑みながら本番を楽しみしている。

園田恵

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山の手事情社公演「ひかりごけ」
詳細は、こちらからどうぞ。
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13/03/10

ひかりごけ

「ひかりごけ」稽古場日誌/「この作品の面白み」

この作品をやるにあたって去年、若手何人かで『ひかりごけ』の研究をしました。
そのとき、“もし自分が『ひかりごけ』のような状況におかれたら、果たして人の肉を食べるか?” というのをテーマに話し合ったことがありました。

面白かったのは、みんなそれぞれ考え、意見が違ったことです。

「食います、人だろうと死んだらそれはただの肉だから」と即答した後輩の鯉渕。
「申し訳ないと思いつつも食べるかな」と言ったのは同期の文。
「誰かが肉を削いでくれたら食べるかも、自分で死体の肉は削ぎたくない」と制作の福冨さん。
最初は「食べない、食べて生き延びるくらいなら死んだ方がマシ」と言っていたが、死んだら嫁さんに会えなくなるんだよ、と言ったら悩んだ石原。

この作品に出てくる登場人物達もその考え方がそれぞれ違うのです。
そしておそらくそこに善も悪もない。

〈食人=悪いこと〉みたいなイメージがある。
食べるとなるとなんか申し訳ない気持ちになる。
なんで悪いと思うのか考えるとハッキリした答えが出てこない。
もはや、宗教や哲学的な話になってしまう。

これがこの作品の面白みの一つで、後半の法廷のシーンはとても考えさせられる。

考え方、見方によって作品の色が如何様にも変わる作品、何色になるかとても楽しみ。

谷 洋介

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山の手事情社公演「ひかりごけ」
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13/03/09

ひかりごけ

「ひかりごけ」稽古場日誌/「稽古場という洞内」

暖かくなってきているなか、稽古場では極寒のシーンが続きます。
4人の少人数公演、小回りは利きますが疲労度は半端ではありません。
一日の稽古終盤になると目がショボショボになり、若干ではありますが意識も朦朧となります。
休憩の時には壁にうなだれるように倒れています。

壁に寄りかかりながら眉間にしわを寄せて、じっと耐えているのか、寝ているのかわからない山本氏。
壁際に真直ぐ仰向けに横たわって、死んでいるのか、寝ているのかわからない川村氏。
正座でうずくまり顔を覆いながら「うぁっ、うぁっ」と発声なのか、うなっているのかわからない斉木氏。

広くはない稽古場に、閉じ込められたような三人。
トイレから帰ってきて二足歩行をしている私。
まさに、「ひかりごけ」の洞内そのまま…。
加湿器から時折する「コポッ、コポッ」という音が稽古場という洞内に鮮明に響きます。

「な、なんだ…よくわからないがこの胸がしめつけられる感じは…」
発狂したくなりそうになるが、その体力ももはやない。

「ひかりごけ」の登場人物は何を思って極寒の地に身を寄せ合っていたのだろうか?
なにも考えていなかったのかもしれない。
いや、むしろ考えないようにしていたのかもしれない。
思考してしまうとどんどん不安になる。
今いる環境に身をゆだねながらただじっといるだけ。
耐え忍んでいるのでもなければ、なにか行動を起こすわけでもない。
まるで海岸の岩場の下に潜むフナ虫たちのように。

浦 弘毅

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山の手事情社公演「ひかりごけ」
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