14/06/21

にごりえ

『毒まむし河合達也』(演出部紹介)

久方振りに演出部にニューカマーがやってきた。
山の手の演出助手というと、過去には、双数姉妹の小池さんや、ort-d.dの倉迫さんがいた。
少し前といってもずいぶん前には三谷直子さんがいた。
小池さんや倉迫さんがいた時代はもう、ずいぶん、ずいぶん前なのである。
小笠原くみこの一党独裁体制が続いた演出助手のポジションにようやく吹いてきた新しい風。
果たして演出家デビューを果たせるのか、河合達也。
特技はヒーリングストレッチに殺陣。
花みこしと流しにわかで有名な岐阜県美濃市出身。
って河合に聞いたが・・・。
ヒーリングストレッチって何???
花みこしと流しにわかって有名なの???
知りません。
岐阜県美濃市といえば、「美濃のまむし」の異名をとった斎藤道三でしょう。
おお。
まむしといえば蛇。
この河合達也という男は、研修生修了公演『つぶやきとざんげ』で「蛇」役を演じてた。
これは偶然であるまい。
一度喰らいついたら離さない。粘り強い男なのだ。
道三よろしく、うえのものを毒殺し、成り上がって一国の主となるに違いない。
おお。
ヒーリングストレッチだ。
癒しつつ、毒殺する演出家である。
こちらが下手に出ていると、先輩に向かってダメ出しを始める太いところも持っていると聞く。
まだ、その場面には遭遇していないが、そんなことになったら飛び蹴りを食らわしているかもしれない。
癒して殺すか、殺されるか。
きっと、『にごりえ』もげに恐ろしき現場になっているのであろう。
果たして誰が毒殺されるのか。
『にごりえ』の本番が今からとても楽しみである。

斉木和洋

14/06/20

にごりえ

『1日の始まり』

本番も約1ヶ月前になり、6月から毎日稽古です。そんな山の手事情社若手の1日の始まりを少し紹介します。

準備運動もそこそこに昼の稽古場から飛び出し、走れ走れと安田に追いたてられながら本門寺の決して走るようには設計されていない石段をカンフー映画顔負けの一段飛ばしで駆け上がり息も絶え絶え苦悶の表情で駆け降りる。日蓮様もビックリ。

リアル「何事によりて走り来たれるぞ」※である。
※『道成寺』の台詞より

稽古場に戻れば息つく間もなく拷問のような柔軟。体がネジ切れそうになる。なにも白状することはないのになにか白状しなくてはいけないのではないかという強迫観念に襲われる。

さらに今日1日の力を根こそぎ持っていこうとする筋トレへと続く。そこには一切の男女差別がない。そして休憩することなく発声。酸素濃度が薄く感じる稽古場で自分が今いったい何をいっているのかわからなくなる。足元がふらつきだす人まで出ることもある。

そこまでこなしてからやっとシーン稽古やエチュードに入っていく。まあここからが本当の地獄なのだが。そんな環境で過ごした人間がどんな芝居を見せるのか。

是非劇場に確かめに来てください。

鯉渕翼

14/06/19

にごりえ

『しみったれ』

「遊女」 という言葉に、どんなイメージを抱きますか?

堕落した女性。自分を失くした女性。生き地獄。
地獄の中で、それでも彼女達は、どうして生きるのでしょうか。

先日こんな記事を目にしました。
「風俗店が、社会福祉に勝るセーフティーネットになっている。」
読んで見ると、シングルマザーの8割が収入が114万円以下の貧困層であり、託児施設も寮もある風俗店が彼女達のセーフティーネットになっているのだそう。生活保護の申請に行ったら3カ月かかると言われ、そんなに待てないとお店に来た人もいるそうだ。(3カ月もかかるのは違法なそうですが。)

また先日女性のホームレスについて調べていると、28歳から74歳まで売春をして生きてきたというおばあさんの話が載っていた。関東大震災の時に生まれ、子供の半分が脚気で死に、旦那に自殺された時に一番下の子供だけ連れてパンパンになったのだと書いてあった。嘘みたいな酷い話を、現実に生きている人がいる。そのかわいらしいおばあちゃんは「売春防止法」 によって自分は警察に追われていると思い込み、1か所に定住することを拒むそうだ。また受け入れ施設側も、女を入れると他の住居者がうるさいからと拒むらしい、たとえ70歳でも、80歳でも、女は女なのだそう。

「にごりえ」 に出てくる銘酒屋の女達は、いわゆる私娼であり、吉原の様な公娼ではない。そして勿論、花魁でもない。主人公の女でさえただの看板娘なのだ、ドラマチックのかけらもない設定である。しみったれた、救いのない日常、その中で描かれるドラマが「にごりえ」 である。主人公が失恋して泣くシーンすらない。だけれども、生きるというのは失恋して泣くことではなく、その痛みを抱えて過ごす日常のことなのだと一葉は落ち着いた筆で描写している。それはまさに、上記の女性達の姿と重なるのだ。
自分の気持ちに素直になる時間すら持ちにくくなっている今の私達の葛藤を、明治に生きた一葉は女性の繊細な目線で簡潔に綴っている。そしてその中に、個人が抱える地獄を描いているのだ。多くの読者が樋口一葉に今だに惹かれるのは、彼女の描く葛藤が今の私達からそう離れていないからだろう。

そんな近代女史の作品「にごりえ」 を、前衛演劇の山の手事情社が舞台に上げたらもうどんなことになるか。梅雨入りしてもランニングする時だけ雨が上がってしまう悪運の強い若手が作ったらいかなることになるか。
もう震えが止まりません。(色んな意味で)

後1カ月、一葉に顔向けできる作品にするべく、がんばります。どうぞ皆さま、劇場に足をお運びください。

小栗永里子

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