14/03/04

ヘッダ・ガブラー

『気になる! 』

『ヘッダ・ガブラー』は、ノルウェーの作家イプセンが約100年前に書いたお話だ。

ノルウェー? どこだよ何語だよ…。
100年前? ひいじいちゃんが赤ちゃんくらいってこと…? 想像もつかない。
なんだ古くさい小難しい芝居か眠そうだな…と食わず嫌いで一歩引いてしまいそうだ。

だがちょっと待ってほしい。

以前参加したワークショップで、同じくイプセンが書いた戯曲『幽霊』を扱ったことがある。
そこで“自分が気になる台詞を見つけてきてください” という宿題が出た。

当時イプセンなんてほとんど読んだことのなかったわたし。だって言葉は難しいし、誰が誰だかわからなくなって話についていけないし、共感なんてまるでできないし。
ところが、“気になる台詞を探す” という目的を持つと、同じ戯曲が俄然身近に感じらることに気がつく。
気になる、というのは実に曖昧な言葉だが、つまりなんでもいいのだ。
言ってみたい、言われたい、絶対に言われたくない、きれいな、気持ち悪い、素敵な、汚い…とにかく今の自分にビビッドに響く台詞。
探すうち、なぜ自分はこの台詞が気になるのだろう? というのも考えざるを得なくなる。
“気になる” を見つけて、自分がいま抱えているものをじっくり考えてみる。これはなかなかおもしろい作業だ。

総合芸術たる演劇は、“気になる” を見つける格好の場だと思う。気になる俳優、気になる台詞、気になる動き、気になる音楽、気になる衣装、気になる照明…。それぞれの専門家による“気になってほしい!” のせめぎあいだ。

100年前、ノルウェーで書かれた、ヘッダガブラー。この芝居にも、できるだけたくさんの“気になる!” を詰め込んで皆様にお届けしようと、今日も汗水たらして稽古が進む。

名越未央

14/03/03

ヘッダ・ガブラー

『新品の帽子』

『ヘッダ・ガブラー』の戯曲の前半に、好きなシーンがある。ユッレ叔母さんが、ヘッダと一緒に歩くときに恥ずかしくないようにせっかく新調した帽子を、「ちょっとぉ〜あの女中ったらこんな汚いもの部屋ん中持ち込でっ! キィ〜ッ!! 」とヘッダが怒るシーンである。「や、やあ…あれは、おばさんの帽子だよぉ…」とテスマン、叔母さんはショックを隠しきれない。

なんて、性格が悪いんだヘッダ! 絶対わざと言っている。でもきっとぎりぎりのラインで、本気で勘違いしたのかもしれないと思わせるだろう。「ええっ、新品? …だってほら、こんなに汚い。」と追い打ち。ああ嫌だ、こんな女。

でも、かくいう私も、わざとこういう態度をとることがある。気づかない振りして本音を言い、相手を攻撃するパターン。こういう人に限って他人から何か言われると酷く傷つくことが多い。言わなきゃいいのにさ、言ってしまうんですよね。そしてどんどん周りに敵をつくってしまう。馬鹿だなあ、ヘッダ。

この作品には、そういう台詞の裏にある人間のやり取りが沢山含まれている。流石イプセン、近代戯曲の父! その辺りのひりひりした神経にさわる感じは、ギリシャ悲劇やシェイクスピアとは違う面白さがある。更に今回はそれを《四畳半》で表現する! 思う存分、居心地の悪さを味わってください。

三井穂高

14/03/03

ヘッダ・ガブラー

『変化』

『ヘッダ・ガブラー』の稽古もちゃくちゃくと進行しているようです。
台本の読み合わせからちょっと立ってみて、山の手事情社でしかやっていない《四畳半》という名前の形式的な演技へと移行していきます。今回のお芝居は会場が会場だけに、見下ろすのか見上げるのかはわかりませんが、またしてもただものではない公演になるのだろうか。どうだろう。
去年の『ひかりごけ』は仕掛けが大掛かりでしたが今回はいかに。

その片鱗がはやくもあらわれて、久しぶりに稽古場をチラっと覗いてみると床がわさわさしていました。わさわさがさがさしながら稽古のようです。
それがなんなのか。
もちろん、秘密です。
さまざまな実験をくりかえし本番はできあがっていくものです。本番でそのわさわさがさがさがあるかどうかはわかりません。それがなんなのかは観にきていただいたときにでも劇団員の誰かに声をかけてもらえればと思います。
さて、つぎに稽古場に足を運んだときには何がまちうけているか楽しみです。

かわったことといえば、たいしたことはないのですが『ドン・ジュアン』が終わって数日後に川村さんと会ったとき、人相がかわってるなぁ、とおもったらヒゲを剃っていただけでした。年をとったおじいさんの役だったからかヒゲをもさもささせていたのをさっぱりシェービングしたようです。『ヘッダ・ガブラー』では若い男の人です。清潔感のある感じにするのでしょうか。声のトーンも若くしているようです。
それからしばらくして稽古場に顔をだすと例のわさわさが床にまかれていました。このわさわさは見えない粉のようなものが飛ぶらしく咽喉にあまりよくないらしいです。何人かで霧吹きを吹きかけていましたが、なかでも笑美さんの霧吹きは丁寧にして入念、草木一本、塵ひとつ、原子、粒子も残すまいという執拗なまでの執念は清姫かヘッダか、すでにそこには誰なのかは知りませんが誰かしらが宿っているようです。そんな笑美さんに「六条の霧吹きどころ」と名付けたいと思いました。
このとき私は休憩中に入っていったのですがみんな何かに集中している様子でした。何か、と言ってももちろん役のことでしょう。稽古場の重力が少し重くなっています。私は話しかけるのはやめようと思いました 。新たな『ヘッダ・ガブラー』がこの重力のなかから生まれるのでしょう。
そして、川村さんのヒゲは少し生えていました。

石原石子

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