14/03/03
『新品の帽子』
『ヘッダ・ガブラー』の戯曲の前半に、好きなシーンがある。ユッレ叔母さんが、ヘッダと一緒に歩くときに恥ずかしくないようにせっかく新調した帽子を、「ちょっとぉ〜あの女中ったらこんな汚いもの部屋ん中持ち込でっ! キィ〜ッ!! 」とヘッダが怒るシーンである。「や、やあ…あれは、おばさんの帽子だよぉ…」とテスマン、叔母さんはショックを隠しきれない。
なんて、性格が悪いんだヘッダ! 絶対わざと言っている。でもきっとぎりぎりのラインで、本気で勘違いしたのかもしれないと思わせるだろう。「ええっ、新品? …だってほら、こんなに汚い。」と追い打ち。ああ嫌だ、こんな女。
でも、かくいう私も、わざとこういう態度をとることがある。気づかない振りして本音を言い、相手を攻撃するパターン。こういう人に限って他人から何か言われると酷く傷つくことが多い。言わなきゃいいのにさ、言ってしまうんですよね。そしてどんどん周りに敵をつくってしまう。馬鹿だなあ、ヘッダ。
この作品には、そういう台詞の裏にある人間のやり取りが沢山含まれている。流石イプセン、近代戯曲の父! その辺りのひりひりした神経にさわる感じは、ギリシャ悲劇やシェイクスピアとは違う面白さがある。更に今回はそれを《四畳半》で表現する! 思う存分、居心地の悪さを味わってください。
三井穂高